恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 84 三十七丁裏 三十八丁表 と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9
富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 84 三十七丁裏 三十八丁表
三十七丁裏
◯をかし、男有りけり、身ハ膝行(イタカリ ママ →いざり)なから、母なん神子也
けり、その母、長鬼(ママ 長岡)といふ所に住けり、子ハ京に乞食しけれハ、
やしなふとしけれと、一さい衛(ママ 得)やしなハす、人もたのまねハ、占
もせさりけり、さるに しハすはかりに、橡(トチ)の実(ミ)とてふん
したる紙より、うれしくあけてみれハ、歌より、
老ぬれハ 枝のわかれのありといえむ
おそるなみたハ とちのみのごと
かの子ゐざりなかりなきて、よめる、
世の中に 枝のわかれのなくもかな
千世もといのる 人の団栗(ドンクリ)
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
老ぬれハ 枝のわかれのありといえむ
おそるなみたハ とちのみのごと
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
老(い)ぬれば さらぬ別れのありといへば
いよ/\見まく ほしき君かな
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
世の中に 枝のわかれのなくもかな
千世もといのる 人の団栗(ドンクリ)
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
世の中に さらぬ別れのなくも哉
千世もといのる 人の子のため
膝行(イタカリ ママ)
膝行(いざり)(しっこう)
膝行(いざり)《動詞「いざ(躄)る」の連用形から》
1 ひざや尻を地につけたままで進むこと。
膝行(しっこう)。
2 足が不自由で立てない人。
神子
みこ
長鬼(ママ)といふ所
長岡といふ所