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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 83 三十七丁表 三十七丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 83 三十七丁表 三十七丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

富田高至 編者

和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年

 

 

下 83 三十七丁表 三十七丁裏

 

三十七丁表

◯をかし、信濃にかよひ給ひし維茂将軍、れいの

狩しにおハします、共に馬乗ると、大勢にて狩しけ給へり、

一尾へてみるに、假屋打ちけり、女おほうして、とくよ

バんとおもふに、大勢をとゞめて、ろくならん所まてとて

乗打をせさり、女此馬のくらをとりけれハおりて、

   枕とて 草引むすふこともせし

   誰かつまとたに たのまれなくに

 

三十七丁裏

とよみける時ハ、九月晦日なりける将軍おほきに

酔て、赤顔し給ふてける、かくして舞つ謡つ飲ける

を思ひの外に御烏帽子も落ちてける、無理に鬼ともくひ

奉らんとて、大勢ましてよるに、八幡山の麓なる

甲ら(ママ かわら)、足いとはやし、強くて、戸隠に参りてみ奉るに、

づぶ/″\と鼾(イビキ)かきておハしけれハ、やゝ久しくおこして、仰

の事なと御博士とり出て消にける、さてもさふら

ひしかなと思へと、大鬼小鬼とも有りけハ、えためら

はて、無理切に切てかゝれバ、鬼、

   わるくして 太刀ハあらんと思ひきや

   弓ふみおれハ 君をくはんに

   

 

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

   枕とて 草引むすふこともせし

   誰かつまとたに たのまれなくに

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   枕とて 草ひき結ぶこともせじ

   秋の夜だに たのまれなくに

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊

   わるくして 太刀ハあらんと思ひきや

   弓ふみおれハ 君をくはんに

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   忘れては 夢かぞと思(ふ)思ひきや

   雪ふみわけて きみを見むとは

 

 

維茂将軍

 平維茂

 平繁盛の子として誕生。

『今昔物語集』によると二話とも平貞盛の弟・陸奥守平繁盛の孫で上総介・平兼忠の子とされているが、伯父・貞盛の養子となった。貞盛は多くの養子を取っており、子としては15番目だったことから余五(十を超えた余りの五)君、また後に将軍となったと伝えられることから余五将軍と言われる。

 

 平維茂(これもり)

 平安時代中期の武将。

 平将門の乱平定で名を馳せた平 貞盛の甥で養子となり15番目の子として余五将軍と呼ばれた平維茂の墓とされています。

「鬼女紅葉伝説」 戸隠村(現長野市戸隠)で一党を組織して富豪の家々を襲うようになった紅葉。

 その噂は京都にも届き、紅葉討伐のために派遣されたのが平 維茂。平 維茂は苦戦するも、別所温泉の北向観音の加護によって紅葉を討ち取ったといいます。

 しかし、維茂も戦いに傷つき別所温泉での湯治も虚しく亡くなったとされています。

 

鬼女紅葉伝説

 平安の頃、紅葉という高貴な女性が京の都から水無瀬(鬼無里)に追放されてきました。

 村人は美貌と教養溢れる紅葉を敬慕し、内裏屋敷を造って敬愛しました。

 しかし、紅葉は山里の暮らしに物足りなさを感じ、昼は村人に読み書きなどを教えていたものの、夜は変装して他村を荒らし回る生活を始めます。

 やがて紅葉は鬼女と呼ばれるようになり、更に鬼女が京を狙っているという噂が流れました。

 朝廷はその噂を聞き、平維茂(たいらのこれもち)に鬼女退治を命じました。維茂は多くの兵を連れ急ぎ討伐へ向かいましたが、紅葉の妖術を前に太刀打ちできず、失敗に終わります。

 紅葉の妖術を破るためには神仏の力にすがる他ないと、維茂は別所北向観音に17日間参籠し必勝祈願をし、降魔の剣を授かりました。

 剣の力で妖術は無効化され、ついに紅葉は征伐されました。

 

れいの

 例の

 

一尾(いちお)へてみる

 或る山裾の延びた所を通り越して。

 

女おほうして

 女多うして

 

女おほうして、とくよバん

 疾く(とく)副詞

 ①すぐに。早速。急いで。

  出典土佐日記 二・五 「船とく漕(こ)げ」

  [訳] 船を急いで漕げ。

 ②すでに。とっくに。

  出典源氏物語 夕顔 「息はとく絶え果てにけり」

  [訳] 息はすでにすっかり絶えてしまった。

 

ろくならん

 陸ならん

 平らな土地まではと思って。

 

枕とて 草引むすふこともせし

誰かつまとたに たのまれなくに

  枕にしようとして草を引いたと云ったこともせず、

  誰が夫(つま)とだに、頼まれなくに。

 

甲ら(かわら)

 かうら

 謡曲『紅葉狩』では、「かわら」と謳う。

 鬼女紅葉伝説に関係する。

『紅葉狩』は何度か楽しんだことがあるが、印象深い能楽である。

 

えためらはて、

 得ためらわで

 


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