富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 76 三十三丁表
三十三丁表
◯をかし、男、二條通りより、御霊の氏神の祭見に
いきける、近衛の町にておほきな人、この酒まいり給ふ
つい手に、御桟敷より給てのみ、奉ける
大原や おつけの椀にけふよりハ
ならもろはくを おもふまゝのむ
とて、心にもうれしとや思けん、いかに思けん、しらすかし
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
大原や おつけの椀にけふよりハ
ならもろはくを おもふまゝのむ
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
大原や 小鹽の山もけふこそは
神世のことも 思(ひ)出(い)づら目
二條通り
京都
御霊の氏神の祭
京都
上京区上御霊堅町東側
近衛の町にて
地名、近衛が住んでいたところ、
近衛
近衛兵 - 君主を警衛する君主直属の軍人。
近衛府 - 令外官の一つ。
近衛師団 - 御親兵を起源とする日本陸軍に置かれた師団の1つ。
近衛家 - 公家、五摂家の一つ。
おつけ
女性語
汁
奈良諸白(ならもろはく)
奈良酒のこと。
南都諸白(なんともろはく)
平安時代中期から室町時代末期にかけて、もっとも上質で高級な日本酒として名声を揺るぎなく保った、奈良(南都)の寺院で諸白でつくられた僧坊酒の総称。
具体的には菩提山正暦寺が産した「菩提泉(ぼだいせん)」を筆頭として、「山樽(やまだる)」「大和多武峯酒(やまとたふのみねざけ)」などが有名である。
まだ大規模な酒造器具も開発されておらず、台所用品に毛の生えた程度の器具しかなかったと思われるこの時代に、菩提酛、煮酛など高度な知識の集積にもとづいて、かなりの手間を掛け、精緻に洗練された技術で製造していたと思われる。
僧坊酒全盛の時代が終わってからも、奈良流の造り酒屋がその製法を引き継ぎ、江戸時代に入ってからもこのブランドで下り酒などの販路に乗せていた。