富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 10 六丁表 六丁裏
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年 初版
1997年 第三
左
六丁表
◯をかし男 武蔵の國まてまとひありきけり、さて
其國にあらす女をよやハひけり、父ハ「また うど(人)にあハせん」
といひけるを、母なんあたまものに心つけたりける
父ハまたうど(人)にて母なん たて腹也ける、さてなん
右
あたまものと思いける、此むすこ、金をかりてをこせ
さりけり、すむ所なん、入間の郡、みよしのゝ里也ける
みよし野の たのも年貢をこはるゝに
君かかりたる かねかへせかし
むこ かねかへし
わかかたに くるといふなるみよし野の
たのもしかねを ついとりかへす
となん、人の国にても なを 借残ハやまたりける
六丁裏
◯おかし男 武蔵の国にて惑いよりける、さて、
其国に在る女を夜這いける、父は又うど(人)に会わせん
と言いけるを、母なん頭ものに心付けたりける、
父は又うど(人)にて母なん、立て腹也ける、さてなん
頭ものと思いける、此息子、金(かね)をかりてをと起こせ
さりけり、住むところなん、入間(いるま)の郡(こおり)、三吉野の
三吉野の 田面(たのも)年貢を乞はるるに
君が借りたる 金(かね)返せかし
婿 金(かね)返えし
我が方(かた)に 来ると云うなる三吉野の
頼もし金(かね)を つい取り返えす
となん、人の国にても 名を 借残はやまたりける
うど(人)
立て腹(腹をたてる)
たのも年貢(田面年貢)
領主から領民の田地に対する租税
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
みよし野の たのも年貢をこはるゝに
君かかりたる かねかへせかし
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
みよし野の 頼むの雁もひたぶるに
君が方にぞ よるとなくなる
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
わかかたに くるといふなるみよし野の
たのもしかねを ついとりかへす
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
わが方に よると鳴くなるみよし野の
たのむの雁を いつか忘れん