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恩頼堂文庫旧蔵本  『仁勢物語』 9【伊勢物語 かきつばた】「かちみちの きのふもけふも すあしたれは はらりきれぬる たひをしぞおもふ」 四丁裏〜六丁表

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 富田高至 編者

 

 

恩頼堂文庫旧蔵本  『仁勢物語』 9 四丁裏 五丁表 五丁裏 六丁表

和泉書院影印業刊 65(第四期)

1998年 初版

1997年 第三

 

8 五丁裏

左右

四丁裏 五丁表 

◯をかし男有けり、その男 身をえうなき物に思なし

て、「京にハあらし、あつまの方に住へき」とて、行けり、

つれとする人ひとりふたり行けり、道しれる

人もなくて、とうて行けり、三河の國岡崎と云所に

いたりぬ、そこを岡崎とハ、茶うりあるによりてなん

岡崎とはいひける、其やとの家に立よりて旅籠(ハタコ)

めしくひけり、その棚に 柿つへた いとおほく有けり 、それ

を見てつれ人「かきつへた いふ五もしを句のかみ

にすへて、旅の心をよめ」といひけれハ、よめる

  かちみちの きのふもけふも すあしたれは

  はらりきれぬる たひをしぞおもふ

とよめりけれは、皆 人わらひにけり、行/\て駿河

國宇津の山に至りて 吾がのほらんとする道ハ

いとくらふたかきに、つた・かえでハしけり、物心ほそく

ひたるきめをみるとおもふに素行物あひたり

左右

五丁裏 六丁表

「かゝる道はいかてかいます」といふをみれハ知人なり

京にその人のもとにてことつてす

  するかなる宇津の山への十團子

  残りなけれハ かはぬ也けり

富士の山をみれは、さ月のつこもりに雪ありて

めしににたり

  時しらぬ 富士八根ほとの いひもがな

  かのこかたひら かへてくふへき

その山を物にたとへハ冷飯をかさねあけたらん

やうにて、なりはすり鉢のしりのやうになん有ける

猶行/\て、武蔵の國と下総國との事におほき

なる河あり、それを角田川といふ、その河のほと

りに、むれいて思やれハ、「かきりなく ひたるくもある

かな」とわひあへるに、渡守、「はや舟にのれ、日も暮

ぬ」と云さる、折しもしろき顔に、帯と小袖とあるき

舟の上にあそひて、いひをくふ 渡し守にとへハ、「これ

なん、みやこ人」といふを聞きて

  なめしあらハ いざ ちと くハん 都人

  吾おもふほと ありやなしやと

と詠めりけれハ、舟こぞりてわらいにける

 

 

四丁裏 五丁表 

◯おかし男有けり、その男 身を要なき物に思なし

て、「京にはあらじ、東の方に住べき」とて、行けり、

連れとする人ひとりふたり行けり、道知れる

人も無くて、問うて行けり、三河の國 岡崎と云う所に

至りぬ、そこを岡崎とは、茶売り有るによりてなん

岡崎とは言いける、其や どの家に立ちよりて旅籠(ハタゴ)

飯喰ひけり、その棚に 柿つへた いと多く有けり 、それ

を見て連れ人「かきつへた いう五文字を句の上

に据えて、旅の心を詠め」と言いければ、詠める

  徒歩道(かちみち)の 昨日も今日も 素足たれば

  はらり切れぬる 旅をしぞ思う

と詠めりければ、皆 人笑いにけり、行き行きて駿河

國宇津の山に至りて 吾(わ)が登らんとする道は

いと暗く 高きに、蔦(つた)・楓(かえで)は茂り、物心細く

ひだるき目を見ると思うに、素行物逢至り

五丁裏 六丁表

「かかる道はいかでかいます」と言うを見れば知人也

京にその人の元にて、言伝(ことづて)す

  駿河なる宇津の山辺の十團子

  残り無ければ 買はぬ也けり

富士の山を見れは、皐月の晦(つごもり)に雪ありて

飯(めし)に似たり

  時知らぬ 富士八根程の 言いもがな

  鹿の子 帷子 変えて食うべき

その山を物に例えば、冷飯を重ね あけたらん

様(よう)にて、形(なり)は摺り鉢の尻の様になん 有ける

猶 行き行きて、武蔵の國と下総國との事に大き

なる河あり、それを角田川と云う、その河のほと

りに、群いて思やれハ、「限りなく、ひだるいくもある

かな」とわい合えるに、渡し守、「早、舟に乗れ、日も暮

ぬ」と云いざる、折し 白き顔に、帯と小袖と歩き

舟の上に遊びて、飯(いい)をく食う渡し守に問えば、「これ

なん、都人」と言うを聞きて

  菜飯あらば いざ ちと 食わん 都人

  吾思うほど 有りや無しやと

と詠めりければ、舟 こぞりて笑いにける

 

 

かきつへた(柿の蔕)

宇津の山へ(宇津の山辺) 

十團子(とうだんご)

 茶店に売っていた名物団子

さ月(皐月) 

下総(しもつふさ)

都人

 渡し守の言葉で、謡曲『隅田川』を思い浮かべる。

 

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊     

  かちみちの きのふもけふも すあしたれは

  はらりきれぬる たひをしぞおもふ

『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す

  信濃なる 浅間の嶽にたつ煙 

  をちこち人の 見やはやがめぬ

『仁伊物語』岩波古典文学大系90 より写す

  から衣 きつつなれにしつましあれば

  はる/″\きぬる 旅をしぞ思ふ

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊     

  するかなる 宇津の山への十團子

  残りなけれハ かはぬ也けり

『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す

  から衣 きつつなれにしつましあれば

  はる/″\きぬる 旅をしぞ思ふ

『仁伊物語』岩波古典文学大系90 より写す

  するかなる 宇津の山への十團子

  銭がなければ 買はぬなりけり

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊

  なめしあらハ いざ ちと くハん 都人

  吾おもふほと ありやなしやと

『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す

  名にし負はば いざこととはんむ宮こ鳥

  わが思ふ人 ありやなしやと

『仁伊物語』岩波古典文学大系90 より写す

  菜飯あらば いざちと食わん都人

  我が思うほどに 有りや無しやと


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