『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 3 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門
早稲田大学デジタルライブラリー
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みちのく、あいづにて、名代ながさぬかねつかひ、此比
やみへ のびりつめたに、天王寺屋。小ぎくをを思ひ。思ハれたさに、な
まず川よりゆら/\と野崎参りのやかた船。卯月中はのはつ
あつさ、末の。うるふに おいぐりて、まだはださむき川風を。酒
にしのだてそゞり行。しやくざいれうぜんめうほつけ。こん
ざい西方めうあみぎ。しやばじげんくハんせ音。三世のりやく。
三ねんつゞき。去ゝ年つちのへ、亥の春ハ、うらや せどやに、つみ
ぶかく。はりくし箱や。じゆすぶくろ。そこに甘のめも見ず
しかぬかんふつうのしやじやうとせん、しやの御年のつかみ
どり。しまわうごんの御はだへに たちまち なちのくハんぜ音。
去年ハ、わしう ほうりうじ。しやうとく太子の千百年忌。これ
又くせの大ひのけしんづゝいて、ことし 此さつた。さくら過にし
山ざとの。たれとふへくりなかりしに、らうにやくなん女、花さき
て。足をそ/\、空吹風に。ちらぬ色かの だて参り。おとな
此比
〘名〙 (上代は「このころ」)
① 近い過去から現在までの漠然とした時間をさしていう。
ちかごろ。最近。この日頃。近来。
このじゅう。このじゅううち。
※万葉(8C後)一四・三五〇六
「新室(にひむろ)の蚕時(こどき)に到ればはだ薄穂に出し君が見えぬ己能許呂(コノコロ)」
※談義本・世間万病回春(1771)五「比日(コノゴロ)は久しく御意得ぬに」
② 近い未来の漠然としたある期間をさしていう。近いうち。近日。
※万葉(8C後)一〇・二三二九「雪寒み咲きには開(さ)かず梅の花よし比来(このころ)はさてもあるがね」
歌舞伎・蝶々孖梅菊(1828)二幕「木梚町が、大分面白いといふ事ゆゑ、こちのお福さんも、是非この頃(ゴロ)に、見に行くと申す事でござりますわいなア」
③ 過去の、現在と季節や時間の対応する漠然としたある期間をさしていう。
今時分。 ※源氏(1001‐14頃)御法「むかし大将の御母うせ給へりしもこの比のことぞかしとおぼしつるにいと物かなしく」
[補注]現代語の、過去におけるある時期をさす「このころ」は連語と認め、この項には含めなかった。
しやくざいれうぜんめうほつけ
昔在霊山名法華
ざい西方めうあみぎ
今在西方名阿彌陀
しやばじげんくハんせ音
娑婆示現観世音
三世のりやく。三ねんつゞき。
此処で、昔在霊山名法華。今在西方名阿彌陀、娑婆示現観世音、三世利益同一体の三世利益同一体と言葉を変え、『女殺油地獄』の話は続く。
※大観本謡曲・高野物狂(1423頃)「昔在霊山名法華。今在西方名阿彌陀、娑婆示現観世音、三世利益同一体。げにありがたき悲願かな」
今在(こんざい) 〘名〙 まのあたり。目前。 ※大観本謡曲・高野物狂(1423頃)「昔在霊山名法華。今在西方名阿彌陀、娑婆示現観世音、三世利益同一体。げにありがたき悲願かな」 うらや せどや 裏屋 背戸屋 しまわうごん 紫麻黄金〘名〙 =しまごん(紫磨金) ※今昔(1120頃か)二「仏、紫磨黄金の御手を以て此を受て」 紫色を帯びた純粋の黄金。紫磨黄金。紫金 (しこん) 。 「体相威儀いつくしく、―の尊容は」〈栄花・玉の台〉 なちのくハんぜ音 那智の観世音 わしう ほうりうじ。しやうとく太子 和州 法隆寺。聖徳太子 らうにやくなん女 老若男女
『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作
近松門左衛門 1653-1724
高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門, [出版年不明]
22cm
竹本筑後掾正本
共同刊行:山本九兵衛(大坂高麗橋)
題簽の一部を欠く 虫損あり
和装
印記:文楽蔵,渡邉蔵書
渡辺霞亭旧蔵
早稲田大学デジタルライブラリー ヘ07 04334
『女殺油地獄』 1 上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 早稲田大学所蔵と東洋文庫所蔵は、同じ。 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 2 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 3 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門