富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 94 四十一丁裏 四十二丁表
四十一丁裏
◯をかし、男 女ありけり、いかゞ有けん、その女、目つふれに
ける後に、類生しけれと、星ある眼也けれハ、
こまかにこそ見えねと、とき/″\物ハみえけり、女 瘡かく
人也けれは、掻をれるハかり也、今の男、疱瘡すとて、
四十二丁表
ひとつの鼻落たりけり、かの男、いとつらく、「をのか気相
の事をハ、今まてのたまハねハ、偽とおもふらん、撫て
見給ふへし物になん、有ける」とて、弄してよみてやり
ける、時ハ春に何、なりける、
清盲(アキシキ)ハ かすか きつかと照ぬれと
霞に霧や ふりまさるらん
となんよめりける、女 返し、
ちく/\と 木すゑにはるもなりぬれハ
もがたで鼻も 根からちりける
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
清盲(アキシキ)ハ かすか きつかと照ぬれと
霞に霧や ふりまさるらん
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
秋の夜は 春日話するゝ物なれや
霞に霧や 千重(ちへ)まさるらん
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
ちく/\と 木すゑにはるもなりぬれハ
もがたで鼻も 根からちりける
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
千ゝ(ちゞ)の秋 ひとつの春にむかはめや
紅葉(もみぢ)も花も ともにこそちれ
弄じて(ろうじて)
弄(ロウ もてあそぶ)
1 もてあそび楽しむ。「玩弄(がんろう)・嘯風弄月(しょうふうろうげつ)」
2 なぶりものにする。「愚弄・嘲弄(ちょうろう)」
3 思うままに操る。「弄舌/翻弄」
掻をれるハかり也
掻きおれるばかり也
清盲(アキシキ)
アキジキ
外見は見えるようで、実際には物が見え無い眼病。
もがた
疱瘡の事。