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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 69 三十丁表 三十一丁裏 三十一丁表 三十一丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 69 三十丁表 三十一丁裏 三十一丁表 三十一丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

富田高至 編者

和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年

 

下 69 三十丁表 三十一丁裏 三十一丁表 三十一丁裏

 

三十丁表

◯をかし、男、ありけり、其男、伊勢の國へ博打を打

にいきけるに、かの伊勢のはくちうち、常の人よりハ

此人上手也けれは、親にもいふて、いと念頃(ママ)にあひし

らひけり、朝にハともに出て、夕さりハ帰り、共にねに

けり、かくて念頃(ママ)に地走(ママ)しけり、二日とも、夜、男忍て

 

三十一丁裏

うたんと云、伊勢の男もうたしとも思へしすたれと

人めしけられハ、えうたす宿せんと云人あれは、人を

しつめて子の時よりハ、の宿に行て戸の上方を見

出してふ付きのせるに、付きのおほろ成に、ちいさき骰(ママ サイ)

あまた持て、人立入、男、いとうれしくて、吾ゐる

取にゐて、入て、ひとつより丑みつまてうつに

また、かちまけもあらす、打明しけり、つ と起きて、油の

代にわか銭をやるへきにしあらねハ、心もとなくて

しハしあるに、あるしのかたより

   君やうちし 人や負けけんおもほらす

   かちかまけたる 下手か上手か

男、いといたして忍ひてよめる、

 

三十一丁表

   打明す 油の残るまとひきに

   へた上手とハ こよひささだめよ

とよみてやりて出ぬ、今夜ハ人をしつめて、いと、とく

打んとおもふに國の守、賽の上手の博打打ちあると

聞て、夜一夜おかしけれハ、もはや打事も え せて、明

れは、尾張の國へ逃んとすれハ、亭主かたより出す

盃のさらに、歌を書て出しける、

   かちにけに もらへとくれぬ残し俺は

とかきてすゑハなし、そのさらにたはこのはいして

末をかきて

   こののむ酒の 代ハやらなん

とて明れハ、尾張國へこへにけり、さい打ハ、水尾の

 

三十一丁裏

御時、惟高(ママ)のみこの馬取、

 

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

   君やうちし 人や負けけんおもほらす

   かちかまけたる 下手か上手か

 

   打明す 油の残るまとひきに

   へた上手とハ こよひささだめよ

 

   かちにけに もらへとくれぬ残し俺は

とかきてすゑハなし、そのさらにたはこのはいして

末をかきて

   こののむ酒の 代ハやらなん

  

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   君やこし 我やゆきけむおもほえず

   夢か現(うつゝ)か ねてかさめてか

 

   かきくらす 心の闇にまどひにき

   夢うつゝとは こよひ定めよ

 

   かち人の 渡れど濡れぬえにしあれば

とかきて、末はなし、市の盃のさらに、続松(ついまつ)の炭して、

歌の末をかきつぐ、

   またあふ坂の 関はこへなん   

 

      

 

念頃

 ねんごろ

 懇ろ

 

地走

 馳走

 

骰(ママ)サイを

 賽(サイ)

 骰とは、さい/さいころなどの意味をもつ漢字。

 14画の画数をもち、骨部に分類される

 

また、かちまけもあらす

 まだ、勝ち負けもあらず

 

つ と起きて

 つ(さっと)と起きて

 

まとひきに

 窓引きに(油に入れる油を出入りさす引窓)

 

打ん

 打たん

 

 博打に使う

 立方体の各面にそれぞれ一から六までの点が打ってあり、すごろく・ばくち等に使うもの。

 投げころがして上面に出た点の数で事を決する。さいころ。

 

水尾

 清和天皇の御代

 

惟高(ママ)

 惟喬(これたか)

 惟喬親王(これたかしんのう、承和11年(844年) - 寛平9年2月20日(897年3月30日)は、平安時代前期の皇族。

 文徳天皇の第一皇子。

 官位は四品・弾正尹。

 小野宮を号す。

 

馬取(うまとり)

 馬の口を取る

 

 


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