富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』24「」十四丁表 十四丁裏 十五丁表
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年
左
十四丁表
◯をかし男、片田舎に住けり、男、都へとて、草鞋(ワランチ)の
緒をしめていきけるまゝに、三月こさりけれは
まちかねけるに、いと仕事する人に餅くハせんと
左右
十四丁裏 十五丁表
ちきりたりけるに、此男もとりける、此戸あけゐへと
たゝきけれとあけで歌よみて、出したりける
粟・稗(ヒエ)のとし見事にで来たれハ
もちをつくとて 手の暇もなし
といひ出したりければ、
角豆もち 粉もち粟もちとしつくと
吾残るゝハ 粳(ウル)も えつかし
といひていなんとしけるは、女、
あつきもち つけとつねと外よりも
枢(クロゝ)ハあとへ あきにしものを
といひけれと、男腹立てけり、いとかなしくて
尻からけ して馳走すれと、お湯ものまて 白水
十五丁表
のある所に滑(スベり)ける、そこなりける飯椀に大指の
爪ひたしにもりて、さしつけける、
相思ハて しかれる人を すゝめるも
わがくふ餅ハ ひへハへぬるめ
とよみて、それは花びらになりけり
十四丁表
◯おかし男、片田舎に住みけり、男、都へとて、草鞋(ワランヂ)の
緒を締めて行きけるままに、三月来ざりければ
待ちかねけるに、いと仕事する人に餅くはせんと
十四丁裏 十五丁表
契りたりけるに、此男、戻りける、此戸開けいえと
叩きけれど、開けで歌詠みて、出したりける
粟・稗(ヒエ)の 年見事に 出来たれば
餅をつくとて 手の暇も無し
と云い出したりければ
角豆餅 粉餅 粟餅と しつくと
吾残る流は 粳(ウル)も 得つかし
と云いていなんとしけるは、女、
熱き餅 つけとつねと外よりも
枢(クロゝ→くるる)は後(あと)へ 飽きにしものを
と云いけれど、男腹立てけり、いと悲しくて
尻からげ して馳走すれど、お湯も 飲まで、 白水
十五丁表
の有る所に滑りける、そこなりける飯椀に大指の
爪浸しに盛りて、指(さし)浸けける、
相(あい)思わで 叱れる人を 進めるも
我が食う餅は 稗(ひえ →冷え)は 得 ぬるめ
と詠みて、それは花びらになりけり
粟・稗(ヒエ)→手の暇もなし
実り、餅をつくいたが、手の暇がない^^
枢(クロゝ)
枢(くるる)戸のくいの一部
尻からけ
尻からげ
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
粟・稗(ヒエ)のとし見事にで来たれハ
もちをつくとて 手の暇もなし
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
あらたまの 年の三年を待ちわびて
たゞ今宵こそ にゐまくらすれ
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
角豆もち 粉もち粟もちとしつくと
吾残るゝハ 粳(ウル)も えつかし
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
梓弓 真弓槻弓年をへて
わがせしがごと うるはし見せよ
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
あつきもち つけとつねと外よりも
枢(クロゝ)ハあとへ あきにしものを
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
梓弓 引けど引かねど昔より
心は君に よりにし物を
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
相思ハて しかれる人を すゝめるも
わがくふ餅ハ ひへハへぬるめ
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
あひ思はで 離(か)れぬる人をとゞめかね
わが身は今ぞ 消え果てぬめる