Quantcast
Channel: 乱鳥の書きなぐり
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5148

『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 七 別れハ当座のはらひ 【2】十九丁ウ 井原西鶴

$
0
0

 


 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 七 別れハ当座のはらひ 【2】十九丁ウ 井原西鶴

  

杉板(すぎいた)につけて、焼きたるとゝ、おお定(さだ)まりの蛸(たこ)、漬梅(つけ梅)、色付の

薑(はじかみ)に、塗竹箸を取そえ、おりふし春ふく、藤色(ふじいろ)の

りきん嶋(しま)に、わけしりだてなる、茶(ちや)じゆすの幅広(はゞひろ)、

はさみ結(むす)びにして、朝鮮(てうせん)さやの二の物を、ほのかに

、のべ紙(かみ)に、数(かず)歯枝(ようじ)をみせ懸(かけ)髪ハ四つ折(おり)に、しどけ

なくつかねて、左(ひだり)の御手に、朱葢のつるを引提(ひつかけ)、たち

出るより「淋(さひ)しさうなる事かな、少 さゝなど、是より

給(たべ)まして」といふもいやらしく、屢(しば)しハ、実(み)のなき垣(かや)を

荒らして、ありしが、無下(むげ)に捨(すて)難(かたく)、いたゞけば、濱焼(はまやき)の

中程(ほと)を、ふつゝかにはさみて、抑えますかといふ、はしめの

程ハ、たまわり兼(かね)、さらに又、所(ところ)を替(かえ)てとおもふ内に、せハしく

 

杉板(すぎいた)に付けて、焼きたると と、大定(さだ)まりの蛸(たこ)、漬梅(つけ梅)、色付の

薑(はじかみ)に、塗竹箸を取(とり)添え、折節 春ぶく、藤色(ふじいろ)の

りきん嶋(じま)に、訳 知りだてなる、茶(ちゃ)繻子(しゅす)の幅広(はばひろ)、

挟み結びにして、朝鮮(ちょうせん)鞘の二の物を、ほのかに

、のべ紙に、数(かず)楊枝(ようじ)を見せ懸(かけ)髪は 四つ折に、しどけ

なく つかねて、左の御手に、朱葢のつるを引っ掛け、立ち

給(たべ)まして」と言うもいやらしく、屢(しば)しは、実の無き垣(かや)を

荒らしてありしがが、無下(むげ)に捨て難く、頂けば、濱焼(はまやき)の

中程を、不束(ふつつか)に挟みて、「抑えまする」と言う、初めの

程は、たまわりかね、さらに又、所を替と思う内に、忙しく(せわしく)

出るより「淋しそうなる事かな、少 ささなど、是より

 

りきん嶋(未詳)

幅広(はゞひろ)

 幅の広い帯

朝鮮(てうせん)鞘(さや)

 朝鮮の紋の無い沙織

二の物

 腰巻

茶(ちゃ)じゅす

 茶色の繻子

さゝ(ささ)

 酒

屢(しばしば)

 1 しばしば、度々、繰り返し

 2 わずらわしい

 


 

一巻 七 別れハ当座のはらひ 

【1】十九丁オ

別れハ当座のはらひ

茶宇嶋のきれにて、お物師がぬうてくれし、前巾着(まへきんちやく)に

、こまかなる露を、盗(ぬす)みためて、或(ある)夕暮、小者(こもの)あがりの

若き者をまねき、同し心の水のみなかみ、清水八坂に

さし懸(かゝ)り、此あたりの事でハないか、日外(いつそや)ものがたりせし、

歌よくうたふて、酒飲(のん)て、然も憎(にく)からぬ女ハ、菊屋か

三河屋 蔦(つた)屋かと探(さが)して、細道(ほそ道)の萩垣(はぎかき)を、奥に入れば

梅(むめ)に鶯(うくいす)の屏風床(ひやうぶとこ)にハ誰(た)が引捨し、かしの木のさほに、一筋(すぢ)

切れて、むすぶともなく、うるみ朱の、煙草盆(たはこぼん)に、炭団(たどん)の

埋(うつみ)火絶(たへ)ず、畳ハなにとなく、うちしめりて、心地(こゝち)よからず、

おもひながら、れいのとさん出て、祇園細工(きをんさいく)、あしつきに

別れは当座の払い

茶宇嶋のきれにて、お物師が縫うてくれし、前巾着(まへきんちゃく)に

、細かなる露を、盗(ぬす)み貯めて、或(ある)夕暮、小者(こもの)あがりの

若き者を招き、同じ心の水の水神(みなかみ)、清水八坂に

さしかかり、此あたりの事ではないか、日外(いつぞや)物語せし、

歌よく歌うて、酒飲(のん)で、然も憎(にく)からぬ女は、菊屋か

三河屋 蔦屋かと探して、細道(ほそ道)の萩垣、奥に入れば

梅に鶯の屏風床(びょうぶどこ)には、誰(た)が引き捨てし、樫(かし)の木の竿に、一筋

切れて、結ぶともなく、うるみ朱の、煙草盆(たばこぼん)に、炭団(たどん)の

埋(うづみ)火絶(たえ)ず、畳は 何となく、うち湿りて、心地(ここち)良からず、

思いながら、例のとさん出て、祇園細工、足つぎに

【2】十九丁ウ

杉板(すぎいた)につけて、焼きたるとゝ、おお定(さだ)まりの蛸(たこ)、漬梅(つけ梅)、色付の

薑(はじかみ)に、塗竹箸を取そえ、おりふし春ふく、藤色(ふじいろ)の

りきん嶋(しま)に、わけしりだてなる、茶(ちや)じゆすの幅広(はゞひろ)、

はさみ結(むす)びにして、朝鮮(てうせん)さやの二の物を、ほのかに

、のべ紙(かみ)に、数(かず)歯枝(ようじ)をみせ懸(かけ)髪ハ四つ折(おり)に、しどけ

なくつかねて、左(ひだり)の御手に、朱葢のつるを引提(ひつかけ)、たち

出るより「淋(さひ)しさうなる事かな、少 さゝなど、是より

給(たべ)まして」といふもいやらしく、屢(しば)しハ、実(み)のなき垣(かや)を

荒らして、ありしが、無下(むげ)に捨(すて)難(かたく)、いたゞけば、濱焼(はまやき)の

中程(ほと)を、ふつゝかにはさみて、抑えますかといふ、はしめの

程ハ、たまわり兼(かね)、さらに又、所(ところ)を替(かえ)てとおもふ内に、せハしく

杉板(すぎいた)に付けて、焼きたると と、大定(さだ)まりの蛸(たこ)、漬梅(つけ梅)、色付の

薑(はじかみ)に、塗竹箸を取(とり)添え、折節 春ぶく、藤色(ふじいろ)の

りきん嶋(じま)に、訳 知りだてなる、茶(ちゃ)繻子(しゅす)の幅広(はばひろ)、

挟み結びにして、朝鮮(ちょうせん)鞘の二の物を、ほのかに

、のべ紙に、数(かず)楊枝(ようじ)を見せ懸(かけ)髪は 四つ折に、しどけ

なく つかねて、左の御手に、朱葢のつるを引っ掛け、立ち

給(たべ)まして」と言うもいやらしく、屢(しば)しは、実の無き垣(かや)を

荒らしてありしがが、無下(むげ)に捨て難く、頂けば、濱焼(はまやき)の

中程を、不束(ふつつか)に挟みて、「抑えまする」と言う、初めの

程は、たまわりかね、さらに又、所を替と思う内に、忙しく(せわしく)

出るより「淋しそうなる事かな、少 ささなど、是より

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5148

Trending Articles