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『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 七 別れハ当座のはらひ 【1】十九丁オ 井原西鶴

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 絵入  好色一代男   八前之内 巻一  井原西鶴
 天和二壬戌年陽月中旬 
 大阪思案橋 孫兵衞可心板



  『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 七 別れハ当座のはらひ 【1】十九丁オ 井原西鶴

  

別れハ当座のはらひ

茶宇嶋のきれにて、お物師がぬうてくれし、前巾着(まへきんちやく)に

、こまかなる露を、盗(ぬす)みためて、或(ある)夕暮、小者(こもの)あがりの

若き者をまねき、同し心の水のみなかみ、清水八坂に

さし懸(かゝ)り、此あたりの事でハないか、日外(いつそや)ものがたりせし、

歌よくうたふて、酒飲(のん)て、然も憎(にく)からぬ女ハ、菊屋か

三河屋 蔦(つた)屋かと探(さが)して、細道(ほそ道)の萩垣(はぎかき)を、奥に入れば

梅(むめ)に鶯(うくいす)の屏風床(ひやうぶとこ)にハ誰(た)が引捨し、かしの木のさほに、一筋(すぢ)

切れて、むすぶともなく、うるみ朱の、煙草盆(たはこぼん)に、炭団(たどん)の

埋(うつみ)火絶(たへ)ず、畳ハなにとなく、うちしめりて、心地(こゝち)よからず、

おもひながら、れいのとさん出て、祇園細工(きをんさいく)、あしつきに

 

別れは当座の払い

茶宇嶋のきれにて、お物師が縫うてくれし、前巾着(まへきんちゃく)に

、細かなる露を、盗(ぬす)み貯めて、或(ある)夕暮、小者(こもの)あがりの

若き者を招き、同じ心の水の水神(みなかみ)、清水八坂に

さしかかり、此あたりの事ではないか、日外(いつぞや)物語せし、

歌よく歌うて、酒飲(のん)で、然も憎(にく)からぬ女は、菊屋か

三河屋 蔦屋かと探して、細道(ほそ道)の萩垣、奥に入れば

梅に鶯の屏風床(びょうぶどこ)には、誰(た)が引き捨てし、樫(かし)の木の竿に、一筋

切れて、結ぶともなく、うるみ朱の、煙草盆(たばこぼん)に、炭団(たどん)の

埋(うづみ)火絶(たえ)ず、畳は 何となく、うち湿りて、心地(ここち)良からず、

思いながら、例のとさん出て、祇園細工、足つぎに

 

茶宇嶋(絹織物の種類の名)

きれ(布)

お物師(御物師 おものし)

 公家(くげ)や武家に仕えた裁縫師。のち、裁縫専門の女奉公人。ものし。
「―がぬうてくれし前巾着」〈浮・一代男・一〉

露(露銀 ろぎん)

水の水神(みなかみ)清水八坂に   日本古典文学大系『西鶴集 上』頭注

 「水の水神清くして流れの末も久方の空も長閑に廻る日の影 清水の寺とし改めて」(田村の草子)

長閑(のどか)

田村の草子

 御伽草子。

〈とししげ〉将軍の子〈としすけ〉がますだが池の大蛇との間にもうけた利仁将軍は,陸奥国たか山の〈あくる王〉という鬼に妻を奪われた。

 鞍馬の多聞天の守護をこうむって〈あくる王〉を滅ぼし,妻をとり返す。

 その折,陸奥国はつせの郡田むらの郷の賤(しず)の女との間にもうけた子が長じて田村大将軍俊宗となる。

 俊宗は17歳のとき,大和国奈良坂山で,かなつぶてをうつ〈りやうせん〉という化生のものを退治。

 さらに2年後には,伊勢国鈴鹿山の〈大だけ丸〉という鬼神を滅ぼすべしとの宣旨をこうむる。

 鈴鹿御前という天女を妻とし,その助けによって〈大だけ丸〉を退治する。

樫(かし)の木のさほ

 三味線などを作るとき、紫檀などを上等とし樫を下品とした。  日本古典文学大系『西鶴集 上』頭注

 また、樫は硬い木として有名。

 「樫の木のさほ」は、ワハハである^^

 以下しばらくはワハハが続くので、意味は省略

とさん

 酒を捨てる台


 

一巻 七 別れハ当座のはらひ 

【1】十九丁オ

別れハ当座のはらひ

茶宇嶋のきれにて、お物師がぬうてくれし、前巾着(まへきんちやく)に

、こまかなる露を、盗(ぬす)みためて、或(ある)夕暮、小者(こもの)あがりの

若き者をまねき、同し心の水のみなかみ、清水八坂に

さし懸(かゝ)り、此あたりの事でハないか、日外(いつそや)ものがたりせし、

歌よくうたふて、酒飲(のん)て、然も憎(にく)からぬ女ハ、菊屋か

三河屋 蔦(つた)屋かと探(さが)して、細道(ほそ道)の萩垣(はぎかき)を、奥に入れば

梅(むめ)に鶯(うくいす)の屏風床(ひやうぶとこ)にハ誰(た)が引捨し、かしの木のさほに、一筋(すぢ)

切れて、むすぶともなく、うるみ朱の、煙草盆(たはこぼん)に、炭団(たどん)の

埋(うつみ)火絶(たへ)ず、畳ハなにとなく、うちしめりて、心地(こゝち)よからず、

おもひながら、れいのとさん出て、祇園細工(きをんさいく)、あしつきに

別れは当座の払い

茶宇嶋のきれにて、お物師が縫うてくれし、前巾着(まへきんちゃく)に

、細かなる露を、盗(ぬす)み貯めて、或(ある)夕暮、小者(こもの)あがりの

若き者を招き、同じ心の水の水神(みなかみ)、清水八坂に

さしかかり、此あたりの事ではないか、日外(いつぞや)物語せし、

歌よく歌うて、酒飲(のん)で、然も憎(にく)からぬ女は、菊屋か

三河屋 蔦屋かと探して、細道(ほそ道)の萩垣、奥に入れば

梅に鶯の屏風床(びょうぶどこ)には、誰(た)が引き捨てし、樫(かし)の木の竿に、一筋

切れて、結ぶともなく、うるみ朱の、煙草盆(たばこぼん)に、炭団(たどん)の

埋(うづみ)火絶(たえ)ず、畳は 何となく、うち湿りて、心地(ここち)良からず、

思いながら、例のとさん出て、祇園細工、足つぎに

 

 


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