『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 6 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門
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同しやうばいの色友達、刷毛の弥五郎、皆朱の善兵衛。のざき参り
の三人づれ、万事を夢とのみあげし。ねざめさけ 重 五升だる
坊主持して、北うづむ。小きく目が客とつれ立、よし/\と下向
するも、此筋と。のさばり返つてくる道の。ちやみせのうち
より申ゝ与兵衛様。夢ゝ/\と呼かけられ。ヤ、お吉様、子共衆つれ
ての参り。いや、こちの人も同道、二、三げんよるところもあり。追付、爰へみへる
はづ。おつれ衆も マァ 是へ。ひら/\としいれて、たばこ一ふくいたさう
かと。腰打くるもの、んこらし。何と与兵衛様。御はんしやうな参りでハない
かいの。よい衆の娘子達や、おいゑ様かだ。アレ/\ あそこへ きゝやうそめの腰がハり。
嶋じやの常しやじやハ、ひの/\。ソレ、/\/\そこへ嶋ちゞ身にのこの常。慥に
中のふうと見た、又、一位みずでハ有ぞ。いか様わかい お衆が、此よなおりに。
あんなみ事な者、引つれ、ぜいのやりたいハ、道理。こな様もつれ立たい者が
ある。こんな折に、新地の天王寺や、小きく殿か。新地の備前屋松風殿。なんと、
同しやうばい
同商売
皆朱
漆塗りの一種。全部朱色に塗ること、また、塗ったもの。
うづむ 【埋む】 他動詞マ行四段活用 活用{ま/み/む/む/め/め}
①うずめる。かぶせて覆う。
出典あけ烏 俳諧 「不二(ふじ)一つうづみ残して若葉かな―蕪村」
[訳] 初夏、頂に雪を残す富士山だけを残して、そのふもとのあたりはすっかり若葉がうずめ尽くしている。
②気持ちをめいらせる。
出典壬二集 「心をうづむ夕暮れの雲」
[訳] 心をめいらせる夕暮れの雲よ。 参考室町時代の用法として下二段活用もある。
御はんしやう
御繁盛
きゝやうそめ
桔梗染め
あんなみ事な
あんな、見事な
こな様(こなさん)
こなさん[代]二人称の人代名詞。「こなさま」のくだけた言い方。
あんた。おまえさん。
「―の孝行の道さへ立てば、わしも心は残らぬと」〈浄・宵庚申〉
新地の天王寺や、小きく殿か。
新地の天王寺屋の、小菊殿か。
『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作
近松門左衛門 1653-1724
高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門, [出版年不明]
22cm
竹本筑後掾正本
共同刊行:山本九兵衛(大坂高麗橋)
題簽の一部を欠く 虫損あり
和装
印記:文楽蔵,渡邉蔵書
渡辺霞亭旧蔵
早稲田大学デジタルライブラリー ヘ07 04334
『女殺油地獄』 1 上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 早稲田大学所蔵と東洋文庫所蔵は、同じ。 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 2 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 3 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 4 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 5 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 6 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門