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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 87 三十九丁表 三十九丁裏 四十丁表 四十丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 87 三十九丁表 三十九丁裏 四十丁表 四十丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

富田高至 編者

和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年

 

 

下 87 三十九丁表 三十九丁裏 四十丁表 四十丁裏

 

三十九丁表

◯をかし、男つり髪いバら組、芦屋釜ぶた、とつての

介なと、人にてありけり、むかし、歌に、

   芦屋釜 ふたのとつてハ釘もなみ

   つけつおくれつ さゝてきにけり

とよみけるに、この里をよみける、爰をなん、あし

やのなたとなんいひける、此男、なまかハ物なりけれハ、それ

をたよりにて、ゑびの介とも かゞみ、集まりきにけり

 

三十九丁裏

この男のこのみもゑびの介也けり、その家のまへの海

のほとりにあそひありきて、「いさ 此山の神のおると

いふ 布みにのほ覧」といひて、のほりて見るに、その機

物よりこと也、長サ二丈、広き五尺ハカリなる石のおもてに

白きぬに岩をつゝめなんやうに有ける、まる機(ハタ)のかみに

草鞋(ハラヂ)のおほき さして、御出たるぶら/″\あり、それに

走りかゝリに ぶら/″\ハ、てゝ、栗のおほきさにて、こほれ

おつに、こなる数人に、皆、機の歌、よます、ゑびの介、先よむ、

   わか世をハ 今日もへふぐり松ふぐり

   綾とこの布 いつれ高けん

あるし、つきによむ、

   緯経(スキタテ)ハ 人こそ績(うむ)らし白きぬを

 

四十丁表

   まなくもおるか 袖のせハきに

とよめりけれハ、かたへの人にわらふ事にや有りけん、此

歌に免じて、やみにけり、帰くる道とをくて、うせに

しくらひ手の 餅ずきか家もまへ くるに、ひくれ

ぬやと里のほうをみれハ、蜑の飯たく火 おほく、見

やるにあるに、あるしの男、よむ、

   汁菜(サイ)ハ 千菜(ナ)蕪(カブラ)が穂蓼(ホタテ)かも

   吾すむかたの たゝきか

ととみて、家に帰きぬ、その夜、南の風吹て、浪

いとたかし、つとめてその家の目のこともことも出て、うき

海松(うきみる)、海月(クラケ)なとの浪によせられたるひろひて、家

の内にもてきぬ母かたより、そのみるくら毛を高

 

四十丁裏

つきにもりて、柏(カシ)をおほてさし出たる柏にかけり、

   わたつ海の かさしにさすといはふもゝ

   君固めにハ くらけなりけり

夷中人の歌にてハ、あまれりやたらすや、

 

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

   芦屋釜 ふたのとつてハ釘もなみ

   つけつおくれつ さゝてきにけり

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   芦の屋の なだの鹽焼いとまなみ

   黄楊(つげ)の小櫛(をぐし)も さゝず来にけり

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

   わか世をハ 今日もへふぐり松ふぐり

   綾とこの布 いつれ高けん

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   我が世をば けふかあすかと待つかひの

   涙の瀧と いづれ高けん

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

   緯経(スキタテ)ハ 人こそ績(うむ)らし白きぬを

   まなくもおるか 袖のせハきに

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   ぬき乱る 人こそあらし白玉の

   まなくも散るか 袖のせばきに

 

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

   汁菜(サイ)ハ 千菜(ナ)蕪(カブラ)が穂蓼(ホタテ)かも

   吾すむかたの たゝきか

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

   渡(わた)つ海(み)の かざしにさすといはふ藻も

   君がためには をしまざるけり

      

今まてハ わすれぬ人よにもあらし

をのか君さま としのへぬれは

 今までは 忘れぬ人 世にも有らじ

 己が君様 年の経ぬれば

 

 助

 

ふたのとつてハ釘もなみ

つけつおくれつ さゝてきにけり

 蓋の取っ手は、釘も無み

 つけつ遅れつ 刺で 来にけり

 

爰をなん、あしやのなたとなんいひける

 此処をなん、芦屋の灘と云いける

 

なまかハ物

 生皮者

 怠けて役に立たない者。怠け者。

 

かゞみ

 屈み

 こごむこと。かがむこと。「前屈み」

 

その家のまへの海のほとりにあそひありきて、

 その家の前の辺りに遊び歩きて、

 

「いさ 此山の神のおるといふ 布みにのほ覧」

 「いざ、この山の神の居ると云う 布見に登らん」

 

機 (はた)

 

てゝ、栗のおほきさにて、こほれおつに、

 父、栗の大きさに、こぼれ落つに、

 

わか世をハ 今日もへふぐり松ふぐり

綾とこの布 いつれ高けん

 我が世をば 今日もへふぐり松ふぐり

綾とこの布 いづれ高けん

 

へふぐり (経る、と掛ける)

 聖経する準備で、編んだ糸を球形に巻いたもの

松ふぐり

 松ぼっくりの異名。

高けん

 高いだろう

 

あるし、つきによむ、

 主人、次に詠む、

 

蜑(あま)

 海女

蜑家(たんか)

 たんか - 蛋家、疍家などに同じ。

     蛋民、水上人などとも呼ばれる、中国の水上生活者。

     漁業、海運業などを営む。

 あま -  蜑、蜑女、海人、海女、海士、海部、塰などに同じ。

     沿岸地域で漁労などを業とする人。

 

柏(カシ)をおほてさし出たる柏にかけり、

 柏を覆って差し出し、柏に(歌を)書けり

 春日神社の古式内の神事(?)の時にも、酒が注がれるのは、盃に見立てた柏の葉であった。

 柏の葉の言われを調べてみたがわからない。

 しかし五月日の柏餅では、殺菌作用のある柏を使用するので、そういったことも何がしら 影響しているのかなとも感じる。

 

夷中人 (いなかにん)

 夷

《昔、中国で未開人、蛮族をさしていった語から》異民族。えびす。

 

 


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