恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 85 三十八丁表 三十八丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9
富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 85 三十八丁表 三十八丁裏
三十八丁表
◯をかし、男有りけり、わらわよりつかまちられける天狗、熱
鉄のみ給ふてけり、六時にハかならすいき出にけり、
大嶽のみやつかへしけれハ、常にハ、えましてすたれと、
三十八丁裏
もとの心うしなはて、とんてまはりけるになん、ありける、
昔、つかまつられし人、俗なる禅師なるあまた、参集
て、六時なれハ、「こと、よし」とて、大息つき給ひけり、ゆり
こほすかごと、ふりて、火の雨やます、皆人酔て、「雨にふり
こめられたり」といふを題にて、歌なりけり、
おもへとも 身をつめらねハしりもせす
雪の積もるそ わかこゝろなか
とよめりけれハ、天狗いたうあハれかり給て、御そぬき
て給へりける
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
老ぬれハ 枝のわかれのありといえむ
おそるなみたハ とちのみのごと
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
老(い)ぬれば さらぬ別れのありといへば
いよ/\見まく ほしき君かな
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
おもへとも 身をつめらねハしりもせす
雪の積もるそ わかこゝろなか
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
思へども 身をしわけねばめかれせぬ
雪のつもるぞ わが心なる
膝行(イタカリ ママ)
膝行(いざり)(しっこう)
膝行(いざり)《動詞「いざ(躄)る」の連用形から》
1 ひざや尻を地につけたままで進むこと。
膝行(しっこう)。
2 足が不自由で立てない人。
神子
みこ
長鬼(ママ)といふ所
長岡といふ所
参集て
参り集りて
遊里
遊里(遊郭。いろざと。)ではなく、
ゆりこほす(ゆりこぼす)
揺りこぼす
御そぬき
御衣、脱ぎ