恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 63 二十六丁裏 二十七丁表 二十七丁裏 と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9
富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 63 二十六丁裏 二十七丁表 二十七丁裏
二十六丁裏
◯をかし、男、すり切り果てゝ、いかて口すきあらん所へ
行でしよなとおもへとも、たよりなさに誠ならぬ道
心をおこす、子三人をよひてかたる、二人の子ハ情なく
いひていぬ、三郎也ける子なん、「よき御はからひ」と云ゑ
「此西國、中國にくたりてかな」と思ひて乞食
二十七丁表
しありきてくたり、道ゝ馬の沓ひろひはきする
を、あはれかりけれ、さて、爰かしこ、陪堂(ホイトウ)しけれとも
くれさりけれハ、ある家の門外に立て、
もらへとも 一粒くれぬつゝを米
人ハかむらし おもかけにたつ
とて、腹たつけしきにて、荊棘(イハラ)、唐竹のある
家の陰に来て、つれ乞食のせしやうに、なけきねるとて
寝筵に ころもをしきて今宵もや
こひしき飯を くハてのみねむ
と読(ママ)けるを、哀と思ひて、つれ乞食ともらひあ
つめたる物をとらせける、世の時は、思ふをハ
くひ思ハぬをくハぬ物とハおもふをも思ハぬ
二十七丁裏
こともきらひめみせぬ乞食になん、なりける、
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
もらへとも 一粒くれぬつゝを米
人ハかむらし おもかけにたつ
寝筵に ころもをしきて今宵もや
こひしき飯を くハてのみねむ
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
百年(もゝとせ)に 一年(ひとゝせ)たらぬつくも髪
我を恋ふらし 面影に見ゆ
さむしろに 衣かたしきこよひもや
恋しき人に あはでのみねむ
しよな
し(する)
よ+な(だなぁ)
乞食しありきて
乞食し歩き下り
馬の沓(くつ)
沓(履物の一種。足をその中に入れ、履いて歩くための物。)
馬の沓
馬の足にはかせるわらぐつ。
うまのわらじ。うまぐつ。
※小笠原入道宗賢記(1609頃)「馬のくつをばうつといふなり。又かけ候とも申候なり」
陪堂(ホイトウ)
ほい‐と
【陪堂/乞=食/乞=児】
《「ほいとう(陪堂)」の音変化》
1 こじき。
2 いそうろう。食客。
荊棘(イハラ)
荊(いばら)
棘のある小木
唐竹(とうちく)
淡竹(ハチク)の異名
つれ乞食
連れ乞食
せしやう
したように
なけきねるとて
嘆き寝るとて
寝筵(ねむしろ)
寝具用の筵(むしろ こも)
江戸時代、筵は日本酒樽の菰(こも)を筵として使われたという説がある。
芝居にも度々出てくるのだが、江戸時代にはこの筵(こも)にも流行があったようだ。
武士は菰(こも)にもプライドあったためなのか、「剣菱」と記された菰(こも)を使用したと、何かで読んだことがある。
寝筵に ころもをしきて今宵もや
こひしき飯を くハてのみねむ
寝筵に 衣を敷きて今宵もや
恋しき飯を 食わでのみ寝ん
のみ
飲み(呑み)
蚤
読
詠み
きらひめみせぬ
嫌いとは見せぬ(思わせない)
つれ乞食ともらひあ
つめたる物をとらせける、世の時は、思ふをハ
くひ思ハぬをくハぬ物をハおもふをも思ハぬ
こともきらひめみせぬ乞食になん、なりける、
連れ乞食と貰い集めたる物を取らせ、世の時は
思うをば食い、思わぬを食わぬ物とば思うをも思わぬ事も
嫌い目見せぬ乞食になん、成りける。
つくも髪
九十九神
百年(もゝとせ)に 一年(ひとゝせ)たらぬつくも髪
我を恋ふらし 面影に見ゆ (伊勢)
何度読んでも味わい深い^^
特にもういい加減およろしいお年頃となった乱鳥にとっては、じんわりとくる歌である。