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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 58 二十四丁裏 二十五丁表と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

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恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 58 二十四丁裏 二十五丁表と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9

 



富田高至 編者

和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年




下 58 二十四丁裏 二十五丁表

 

二十四丁裏

◯をかし、心つきて酒はかりこのみける男、長屋に

住ておりけるに、そこの隣なりける殿腹とも、夜半

はかりに酒のまんとて、此男の所へ来て「いみしのすき

ものゝしわさや」とて、集置きたる徳り(トクリ)ともをふりて

みれとも、酒なければ、男逃げて奥に隠れけれハ、

   あれにけれ あハれいくつのとくりにも

   すみけん酒の おとだにもせぬ

といひて、此長屋にあそひけれハ、男、

   髭おひて あれたるつらのねむたきハ

   かりにも鬼の すかたなりけり

とてなん出したりけるこの男とも、「頬(ホウ)髭(ヒケ)ぬきて

やらん」とて、ぬきけれハ

   

二十五丁表

   打よりて 吾は頬(ホウ)髭(ヒケ)を抜かすせハ

   いたきにつらも ゆかみし物を  

『仁勢物語』和泉書院影印業刊       

  

 

   あれにけれ あハれいくつのとくりにも

   すみけん酒の おとだにもせぬ

といひて、此長屋にあそひけれハ、男、

   髭おひて あれたるつらのねむたきハ

   かりにも鬼の すかたなりけり

とてなん出したりけるこの男とも、「頬(ホウ)髭(ヒケ)ぬきて

やらん」とて、ぬきけれハ

   打よりて 吾は頬(ホウ)髭(ヒケ)を抜かすせハ

   いたきにつらも ゆかみし物を  

 

『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す

 

   荒れにけり あはれ幾世の宿なれや

   住みけん人の をとづれもせぬ

 

   葎(むぐら)生(お)ひて 荒れたる宿のうれたきは

   かりにも鬼の すだくなりけり

 

   うちわびて 落穂(おちぼ)ひろふと聞かませば

   我も田面(づら)にゆかましものを

 

 

集置きたる徳り(トクリ)ともをふりてみれとも、

 集め置きたる徳利を振りてみれども

 

葎(むぐら)

 広い範囲にわたって生い茂る雑草。

 また、その茂み。

 カナムグラ・ヤエムグラなど。もぐら。

《季 夏》「山賤(やまがつ)のおとがひ閉る―かな/芭蕉」

 

すだく

 《五自》虫などが鳴く。

 

落穂(おちぼ)

 1 収穫したあとに落ちこぼれている稲・麦などの穂。

《季 秋》「足跡のそこら数ある―かな/召波」  

 2 落ち葉。

 「―、松笠 (まつかさ) など打ちけぶりたる草の庵 (いほり) 」〈奥の細道〉

 

田面(づら)

 田の表面。たのも。

 また、田のほとり。

「―の闇を、蛍が光の線を引いて飛んだ」(島木健作・生活の探求)

 

 

 

 

 


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