『近松門左衛門全集』より第十巻 『日本振袖始』3 近松門左衛門作
市川猿之助第十二回春秋会公演『日本振袖始』猿之助、右近、玉三郎(2012)を見て、序詞の一部を読む^^
『近松門左衛門全集』より第十巻 『日本振袖始』
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2オ
ウ
三種(じゆ)の宝の神(しん)徳に、家にたのしみ、野に耕し、
手うつてうたふ土民(どみん)迄、式(のり)を超(こへ)さる玉垣(うがき)の内
つ、御国そ道廣き、 卅二臣の棟梁(とうりやう)、藤原の大祖天津(あまつ)
児屋(こやね)の臣(しん)、御前に正笏(しょうしゃく)し、王(きみ)既(すで)に宝祚の御位、天下
万民の父母たる御身、夫婦いもせの道かけてハ、王道い
かゞ行(おこなハ)れん、御心に入、御目につきたる女あらバ、夜るの御座(おまし)
に召入られ、然るべしと奏(そう)問あれバ、恥かしげに御顔を
神(しん)徳
〘名〙 (古くは「じんとく」とも) 神の功徳。神の威徳。 また、霊妙なもの、神的なものの功徳。神威。 ※栄花(1028‐92頃)鳥の舞「普賢色身無辺にし、六道自在無量にして、体相神徳魏々たり」 〔賈誼‐弔屈原賦〕 土民(どみん) (大辞泉) その土地に住みついている住民。土着の民。 式(のり) ①きまり。おきて。 ②てほん。模範。 ③かた。規格。一定のやりかた。 玉垣(うがき) 玉垣(たまがき)と書いて『日本振袖始』では玉垣(うがき)と読ませている。 玉垣とは、神社などの周囲に設ける垣根。 瑞垣(みずがき)。斎垣(いがき)。 棟梁 1 建物の棟 (むね) と梁 (はり) 。2 《棟と梁は家を支える重要な部分であるところから》
㋐一族・一門の統率者。集団のかしら。頭領。また、一国を支える重職。
㋑仏法を守り広める重要な地位。また、その人。
㋒大工の親方。
天津(あまつ)
「つ」は現代語の「の」のことで、天の神・国の神という意味であり、「天つ神」、「国つ神」と表記することもある。
漢字で天津神を「天神」(てんじん)、国津神を「地祇」(ちぎ)とも言い、併せて「天神地祇」「神祇」と言う。
... なお高天原から天降ったスサノオや、その子孫である大国主などは国津神とされている。
天津(あまつ) (大辞林) ( 連語 )〔「つ」は「の」の意の上代の格助詞〕 天の。天にある。天上界に所属する。 天津(あまつ) [1] 〘連語〙 (「つ」は、「の」の意の格助詞) ① 天の。天上の。空の。空にある。「天つ風」「天つ雁」「天つ御空」など。 ② 高天原の。天つ神の。「天つ国」「天つ罪」など。→国(くに)つ。 ③ (一般的な神や、神に関する事物をあらわして) 神の。神事の。「天つ祝詞」「天つ菅麻(すがそ)」など。 ④ (広く尊敬の意をあらわしたり、ほめたたえる意をあらわして) 神聖な。尊い。おそれ多い。清浄な。「天つ日嗣(ひつ)ぎ」「天つ領巾(ひれ)」「天つ御食(みけ)」など。 ※歌謡・松の葉(1703)四・元服曾我「生れ生るる世よかけて、変り給ふなかはらじと、結ぶ誓のしたひ髪、あまつかざしの花よりも、分けて目離(めか)れず眺めしに」 [2] 〘名〙 (一語と考えられて) 天。 ※仙覚抄(1269)「伊勢国風土記云〈略〉天津(あまつ)の方に国有り」 児屋(こやね) 天児屋命(あめのこやねのみこと)は、日本神話に登場する神。 『古事記』では天児屋命、『日本書紀』は天児屋根命と表記される。 別名として天足別命(あめのたるわけのみこと)、武乳速命(たけちはやのみこと)、速経和気命(はやふわけのみこと)、天見通命(あめのみとおしのみこと)、麻刀方命(まとかたのみこと)、太詔戸命(ふとのりとのみこと)、春日戸神(かすかべのかみ)、国辞代命(くにのことしろのみこと)などがある。 その他通称として春日権現(かすがごんげん)、春日大明神とも呼ぶ。 『古事記』には岩戸隠れの際、岩戸の前で祝詞を唱え、天照大御神が岩戸を少し開いたときに布刀玉命とともに鏡を差し出した。 天孫降臨の際邇邇芸命に随伴し、中臣連の祖となったとある。 正笏(しょうしゃく) 笏を正しく身体の中央に持つこと。威儀を正すこと。 正笏(しょうしゃく) 〘名〙 笏を両手で正しく体の中央に持つこと。また転じて、礼儀正しいこと。威儀を正すこと。 ※浄瑠璃・用明天皇職人鑑(1705)一「黄巻朱軸の経典を〈略〉庭上にかきすへさせしゃうしゃく一揖して奏聞有る」 宝祚(ほうそ) 〘名〙 天子、天皇の位。宝位。おおみくらい。 ※続日本紀‐天平勝宝元年(749)閏五月癸卯「詔、朕以二寡薄一恭承二宝祚一」 ※金刀比羅本保元(1220頃か)上「仁明は嵯峨の皇胤なり〈略〉宝祚(ホウソ)をつぎ給」 〔北周書‐宣帝紀〕 祚(ソ) 天子の位。「皇子御誕生あって、―をつがしめん事も」〈平家 三〉 夫婦いもせ いもせ(妹背) 親しい間柄の男女。 夫婦。 恋人どうし。 いもせ(妹背・兄妹)
1 夫婦。夫婦の仲。
「枕を並べし―も、雲居のよそにぞなりはつる」〈平家、灌頂〉
2 兄と妹。姉と弟。
「戯れ給ふさま、いとをかしき―と見給へり」〈源、末摘花〉
歌舞伎では『妹背山婦女庭訓』(いもせやまおんなていきん)という演目あり^^
『妹背山婦女庭訓』(いもせやまおんなていきん)とは、人形浄瑠璃及び歌舞伎の演目のひとつ。
全五段、明和8年(1771年)1月28日より大坂竹本座にて初演。
妹背山は、奈良県吉野町
歌舞伎『妹背山婦女庭訓』は近松半二・松田ばく・栄善平・近松東南・三好松洛の合作。
御座(おまし) 1 御座所(ござしよ)。▽天皇や貴人がいる場所の尊敬語。天皇の場合、「昼(ひ)の御座(=昼間の居間)」と「夜の御座(=寝所)」とがある。2 御敷物。
①に用いられる物の意から、貴人の用いる敷物・ふとんなどの尊敬語。
◆「お」は接頭語。
日本振袖始 近松門左衛門
序詞
天照大神に奉らる、四(う)月、九(なが)月の神御衣(かんみぞ)ハ、
和妙(にぎたへ)の御衣(みぞ)広さ一尺五寸、荒妙(あらたへ)の御衣(みぞ)広さ
一尺六寸、長(たけ)各(おの/\)四丈(ぢやう)、髻(おんもと)糸(ゆし)頸(うな)玉手玉足の
緒(お)のくり返し、神代の遺風(ゐふう)末の世に、恵をおほふ
秋津民(たみ)、ちはや振袖広戈(ぼこ)の国、たいらけく御(しろしめ)す、
天照大臣(てんせうだいじん)の御孫(みまご)、天津彦火瓊ゝ
杵(あまつひこひこほのににぎ)の尊(みこと)と申こそ
「代ゝに王(きみ)たる、始なれ、久方の日の神の御影移りし
八咫(やた)の鏡、是を見る事、吾を見るがことくせよと
の神勅(ちよく)にて神あハれみの仁の道、百王の後迄も
内待所とあがめらる、扨又、御先祖伊弉諾の尊より
御相伝の十握(とつか)の宝剣、是勇(ゆう)の形(かたち)、義の理(ことハり)、御伯父(おぢ)
素戔嗚(そさのお)の尊、たけくいさめる御器量とて、此宝剣
を預り、王を後(うしろ)見ましませバ、神璽(し)に不測(ふしぎ)の礼知有、」
三種(じゆ)の宝の神(しん)徳に、家にたのしみ、野に耕し、
手うつてうたふ土民(どみん)迄、式(のり)を超(こへ)さる玉垣(うがき)の内
つ、御国そ道廣き、 卅二臣の棟梁(とうりやう)、藤原の大祖天津(あまつ)
児屋(こやね)の臣(しん)、御前に正笏(しょうしゃく)し、王(きみ)既(すで)に宝祚の御位、天下
万民の父母たる御身、夫婦いもせの道かけてハ、王道い
かゞ行(おこなハ)れん、御心に入、御目につきたる女あらバ、夜るの御座(おまし)
に召入られ、然るべしと奏(そう)問あれバ、恥かしげに御顔を