富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』23「つといつか ゐのしゝくひし まる額(ビタイ) わりにけらしな 飯汁の椀
」十二丁裏 十三表 十三裏 十四表
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年 初版
『伊勢物語』23は、筒井筒^^
能楽の『井筒』が見たい〜〜!
左右
十二丁裏
◯をかし、ゐ中下りしけり、人の子とも、猪をゆでて
十三丁表
齧(クライ)けるを、おとなに成にけれハ、男も女もはち
たたきの子也けれと、男ハこの業(シワサ) いやとおもふ、女
も是をいやとおもひつゝ、親のをしふれとも
ならハてなん、有ける、さて、此隣(トナリ)の男の許(モト)よりからなん
つといつか ゐのしゝくひし まる額(ビタイ)
わりにけらしな 飯汁の椀
返し
くらひにし ふるかけ御器も かいわりぬ
君ならすし 誰かくるへき
なといひて、つひにほいのことくよびにけり、
さて年頃経るほとに、女、親なく、たよりなく
なるまゝに、もろとも飯米なくてあらんやハとて
左右
十三裏
交跡(カウチ)國・たかさ國へわたりて、いきかよふたより
出来にけりたるけれハ、この里(モト)姓(テ)、お脚(アシ)なとおほく
程もなくて、たのしかりけれは、男こと女ありて、かゝ
づらふに思ひくたひれて、千年の中もかれ/″\
にて、ちなみぬるかほにてみれは、此女、いと仕事
なとして、うちなかめて、
風吹かハ おきて白波 焼亡の
用心きびし ひとりなれとも
とよみけるを聞て、限なくかはゆく思ひひて、手かけ
へもいかすなりにけり、まれ/\かの手かけにいきてみれハ
始こそ心にくく繕(ツクロイ)けれ、今ハうちとけて手つら
飯釜たきて、肴有のかうの物をきりけるを見て
十四表
心うるさくていかすなりにけれハ、かの女男の
かたを見やりて
君かあたに みす/\ならん いかつちの
雲まに落て あたまとるへく
といひておとすに、こハかりて、男こんといへり、よろこひ
て、まつにたび/\うそなりけれハ
君こんと 鳴て夜ことに きつねとも
狸とも身を なしつゝや ねん
といひけれと、男すまぬかほなりけり
十二丁裏
◯おかし、意中下りしけり、人の子とも、猪を茹でて
十三丁表
齧(クライ)けるを、大人に成りにければ、男も女も鉢叩き
の子也けれど、男はこの業(仕業) 嫌と思う、女
も是を嫌と思いつつ、親のをしふれども
ならば手なん、有ける、扨(さて)、此(この)隣(となり)の男の許(モト)よりから なん
つとい(未詳 集いか?)つか 猪食いし 丸額(まるびたい)
わりにけらしな 飯汁(いいじる)の椀
返し
食(くらい)いにし 古かけ御器(ごき)も かい割りぬ
君ならずし 誰かくるべき
なと言いて、つい匂の如く呼びにけり、
さて年頃経る程に、女、親無く、たよりなく
なるままに、もろとも飯米無くてあらんやは、とて
十三裏
交跡(カウチ)國・高砂國へ渡りて、行き通う便り
出来にけりたるければ、この里(モト)姓(テ)、お脚(アシ)など多く
程も無くて、楽しかりければ、男こと女 有りて、かか
づらうに思いくたびれて、千歳の中もかれがれ
にて、ちなみぬる顔にて見れば、此女、いと仕事
等して、うち眺めて、
風吹かば 起きて白波 焼亡(じょうまぶ)の
用心厳し 一人なれども
と詠みけるを聞て、限なく可愛ゆく思いいて、手掛け
へもいかす也にけり、まれまれ かの手掛けに行きて見れば
始こそ心憎く 繕(ツクロイ)けれ、今は打ち解けて手づら
飯釜 炊きて、肴有の香の物を切りけるを見て
十四表
心五月蝿(うるさ)くて 行かすなりにければ、かの女男の
方(かた)を見やりて
君があだに みすみすならん 雷(いかつち)の
雲間に落ちて 頭とるべく
と言いて落とすに、怖がりて、男こんと言えり、喜び
て、待つに度々 嘘なりければ
君こんと 鳴りて夜毎に 狐ども
狸とも身を 成しつつや 寝ん
と言いけれと、男すまぬ顔也けり
齧ける(クライ)ける
噛(かむ) の異体字 (部首 歯)
ケツ、ゲツ、か-ける、かじ-る、か-む、
意味 かむ、かじる、噛み付く、歯で噛む、かける、かく、かけている、
交跡國(カウチ-こく)(こうし、こうち)
交趾郡 - 前漢から唐にかけて置かれた中国の郡、県の名称。
交趾国 - ベトナム北部の黎朝時代の呼び名
しな-フランス-統治時代のベトナム南部に対する呼称。
交趾跡の通称
千年
千歳
焼亡(じょうまふ)
火事
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
つといつか ゐのしゝくひし まる額(ビタイ)
わりにけらしな 飯汁の椀
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
筒井つの 井筒にかけしまろがたけ
過ぎにけらしな 妹見るざまに
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
くらひにし ふるかけ御器も かいわりぬ
君ならすし 誰かくるへき
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
くらべこし 振分髪も肩すぎぬ
君ならずして 誰かあつべき
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
風吹かハ おきて白波 焼亡の
用心きびし ひとりなれとも
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
風吹けば 沖つ白波たつた山
夜半(は)にや君が ひとりこゆらん
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
君かあたに みす/\ならん いかつちの
雲まに落て あたまとるへく
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
君があたり 見つゝを居らん生駒山
雲なかくしそ 雨は降るとも
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
君こんと 鳴て夜ことに きつねとも
狸とも身を なしつゝや ねん
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
君来るむと いひし夜ごとの過ぎ塗れば
頼まぬ物の 恋ひつゝぞふる