『新編金瓶梅』 滝沢馬琴 一巻五ウ(右頁上)、一巻五ウ(右頁下)、右頁中央会話
右頁
あづまの方ハ豊
年(ゆうねん)にてなり
ハひのたよりよろ
しきよしいふ
ものゝありけるが
そらごとにてハ
なけるべし
めれバはら
うらふさ
アまひとり
いかゞ
あづまへ
おも
むいて
うせ
ぎそ
このくない大(分)さげたその
為に なら ゟ(より)かたれハとく、
そなたハ子ともにたりあり
そのおさなきをいだきか
えてゆくへもいまだ定か
ならぬ、たびをバいかに
せらるべきわが身ゆゑ
木をたづさへていでて
かせづばやと歩へとも
第にむらをさのふく義 あれハたルコといえなしかた、「そも
いかに」てよるらんやとおもひいる也、かたらひ肩を残申候義つい/\と
うち聞てそのはのごときハめてよし、去るらんにハそれがしを【右の下▼】
【▲左の上ゟ(より)】をり
えと子供ハ(海)
たりえと申す、としなほ
三ツと当才(とうさい)也、ふう
ふ かたミ におひもしる
いだきもおいゆくものな
たバたびこのうたをなく
さむ、よすがありけるわ
荷おもくにますべし、このときに
は たがひおひたとうふに、文
具兵衛ハとゞめ
かけて、女
をう 山木
と第も弟の
折羽をりを
まるきちかづ
けてこと意つく、
とつけ者ら
するに、山木ハ
ひたすらはじめて女めずをは羽ハ何とも
いハねども、なれ(似)さとをいてて次第いづ
こへつゑをとゞめてん、ゆくへなほ やうとりて い
さそミへ、人ににたるへ(、)るきを、今より思ひせるゝ、たん息そのほかなかり
ける、かくて武具蔵ふうふのもの、たびたちのだんかに、
、、、、、、、、、(本の折り目で読めず)
中央 女
お「いふまでハなけれども、おちついた(1)」
「(1)なら一ト日もはやくたよりをきかして
くださんせへ、なんにも
しらずに武具は(、)
あのうれしがる
かほ ハいの」
中央真中 男
文「九郎
五郎が
おざらうと*
*もう来さうな
者じや、しづかに
ゆきやらざらバ /\」
なりハひ(生業)
かせづばや
かす【糟】接頭語
〔人を表す語に付いて〕下品な。取るに足らない。「かす侍」「かす山伏(やまぶし)」
ばや 終止形《接続》動詞型活用語の未然形に付く。
①〔自己の願望〕…たいものだ。 出典 更級日記 かどで
②〔事態の実現の願望〕…てほしい。▽「あり」「侍(はべ)り」などに付く。出典 平家物語 六・嗄声③〔意志〕…よう。出典 隅田川 謡曲
④〔強い打消〕…どころか、まったく…ない。▽多く「あらばや」の形で用いる。出典 若木詩抄 【第】(だい) 1[名]りっぱな家。やしき。邸宅。 【なくさむ】慰む 【よすが】(縁、因、便)名詞①頼り。ゆかり。身や心を寄せる所。 出典 枕草子
②(頼りとする)縁者。夫・妻・子など。出典 方丈記
③手がかり。手段。便宜。 出典 徒然草 五八
『新編金瓶梅』 滝沢馬琴 一巻 四ウ(右頁中央)〜五オ(左頁中央)
右上部分 四ウ
【発端の巻第三】むかしむろ町持ぐんのすその世にやま(、、、)
やせのさとに矢瀬(やせ)文具(ぶんぐ)兵衛、大むらの浅里(ふべぐ)孫といふ
百姓はらからありけり、先祖(せんそ)ハよしあるの郎ふにてやせ大
はらのやらう者也けるに、みだれたる世のならにて子
孫(そん)、そのちをうしなひハよりつひに民間(ミんかん)かつくだり
三四代いぜんのよりたが中人になりざれども
なほむかしのなごりにて、兄ぶんぐ
兵衞あのやせのむらをさを
つとめけり、されバ矢瀬も
大むらも初代(しょだい)ハする
いちはらからにてなかん
づく、大むらハその
ちやく家(か)也けるに
ちかごろそのいへさへ
たりければ文具兵衞
おやのときになん文具兵衞に大むらの
いへをつがせて、やがて大原氏を名のる
そのいへ先祖(せんそ)相博(さらでん)の田むら
三町八たんハすなハち(、)もち義が所
帯(しよたい)としてながく相続(さうぞく)すべしとて、一家(いつけ)は
るい連名(れんめう)の証文(あかしふミ)をぞわたしおきける、
しかれども、文具兵衞ハいまだ分家(ふんけ)以
ざりしに、ちゝ母うちつゞきて倒
まづもつ、且らく中洛外
(らくぐわい)としてはて
かひはばく
なるにより
こゝち
五オ 左上部分
くわぶんの軍ゆくを
あてられていへをつく
なに余力(よりよく)なけれバ兄文具
兵衞と同居(どうきよ)せにはらからむつまじ
かりけれ、これのれどもにつまをめとりてひとつ
かま(、)ぜありながらちとのくぜちもなし
たるがこれにハいまだ子どもあらず、又文具
義ぢづまハ折羽つりとよばれて、こぞにをのこゞ
ふたりまでう、みたりしそのかひ子を残(、、)と名
つけてことしハ三方て二男剋ハこのはや うまれしを武松
(たけまつ)と名つけたり、四ばかりの子どもらをやしなひて死に
あらねども、いぬる、応仁(あうにん)の乱(らん)より生るのみぞ
こハ名のミにてとくにあれまさりけるの つばめハ木すゑに
そつくりあきの者かハ、大うちの、みかきのもとまでかよふかりされ
そのかミいひ尾彦六さゑもんが 「なれやしるみやとも歌べの
夕ひばりあるを見てもふつるゝ人なりハひをうし
なひて(函)内散(りさん)するものをほうりけり
まいて、みやこにほどとほからず、ゐなかハ
いよ/\ふところへはてとゆたかるものとてハ
いづこのもあることなきよにあまた人この両三
ねん、ひそん水(すい)、そんうちつぎのほかにかて
ともしく食(しよく)する者ハあきたらず、きるものも 亦
あたゝかならず、すげにみだれたまひハ、とにもかくにもせんかたなし
このゆゑに文具兵衛来る日,武具蔵と、たんかにするやう人のいへの【↓ 右の下】
右下部分 四ウ 左下部分 五オ
【▲左上ゟ(より)】いひけんを
いふぞや
かくうち
そろふて
よもき
かけをのと
めんとり
た口(、、)
白きかたぎ
ながの困(こん)
きうを者の
くに足猿
べし、五きない
こそかくの
ごとく衣食
(いしよく)にともしく
なり
たれ
よも
【次へ】
右下部分 四ウ
おそ
やくものこる
春の世かい
とめくされど
こさります
な
秋
「じよ(、、)と
とめくされど
ふたりながら
きゝなさらねへ
(、)な
わ
た
し
に
ちゝ
の
わな
な
る
つ
バ
子
ぞ
を
の
こ
して
おつ
(、)ちに
それもかな
らず
日うきしの
わかれ
はをはさんにゑんぐみな
さいろうとハさかん、さぞ
くろふだろうのふ
四ウ(右頁中央)〜五オ(左頁中央)
文
「かうしておけバ
たがひにあん心
サア/\武具(、、)
せうもんをわたし
ますぞ
「きる
もの
づらも
しようどうでも
だんな
引あハせ
ました
させるゟ(より)
ようこざり
ますのさ
「すぐ兄幾、うち 兄幾ママ(兄貴)
わのこと、せうもんにハ
およびませぬ、と人の
第にハいきなにあり
ねんの入たもよう
ござりませう
久
お
「あす
からとほゝかゆく
ほどに武太よ、おとなしく
女あやならぬありさま
しやのになくまいぞ
『新編金瓶梅』 滝沢馬琴 一巻五ウ(右頁上)〜一巻五ウ(右頁下)
あづまの方ハ豊
年(ゆうねん)にてなり
ハひのたよりよろ
しきよしいふ
ものゝありけるが
そらごとにてハ
なけるべし
めれバはら
うらふさ
アまひとり
いかゞ
あづまへ
おも
むいて
うせ
ぎそ
このくない大(分)さげたその
為に なら ゟ(より)かたれハとく、
そなたハ子ともにたりあり
そのおさなきをいだきか
えてゆくへもいまだ定か
ならぬ、たびをバいかに
せらるべきわが身ゆゑ
木をたづさへていでて
かせづばやと歩へとも
第にむらをさのふく義 あれハたルコといえなしかた、「そも
いかに」てよるらんやとおもひいる也、かたらひ肩を残申候義つい/\と
うち聞てそのはのごときハめてよし、去るらんにハそれがしを【右の下▼】
【▲左の上ゟ(より)】をり
えと子供ハ(海)
たりえと申す、としなほ
三ツと当才(とうさい)也、ふう
ふ かたミ におひもしる
いだきもおいゆくものな
たバたびこのうたをなく
さむ、よすがありけるわ
荷おもくにますべし、このときに
は たがひおひたとうふに、文
具兵衛ハとゞめ
かけて、女
をう 山木
と第も弟の
折羽をりを
まるきちかづ
けてこと意つく、
とつけ者ら
するに、山木ハ
ひたすらはじめて女めずをは羽ハ何とも
いハねども、なれ(似)さとをいてて次第いづ
こへつゑをとゞめてん、ゆくへなほ やうとりて い
さそミへ、人ににたるへ(、)るきを、今より思ひせるゝ、たん息そのほかなかり
ける、かくて武具蔵ふうふのもの、たびたちのだんかに、
、、、、、、、、、(本の折り目で読めず)
中央 女
お「いふまでハなけれども、おちついた(1)」
「(1)なら一ト日もはやくたよりをきかして
くださんせへ、なんにも
しらずに武具は(、)
あのうれしがる
かほ ハいの」
中央真中 男
文「九郎
五郎が
おざらうと*
*もう来さうな
者じや、しづかに
ゆきやれ、さらバ /\」