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Channel: 乱鳥の書きなぐり
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京都サンボア

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(表面張力ぎりぎりまで、ぴったしの量で注ぎ込まれなカクテルでしたが…我慢出来ず二口チュチュ。おいしぃい〜☆そのあと写真を撮りましたm__m悪しからず…)



 

 



 文化博物館や料理や買い物を堪能したあと、寺町の京都サンボアに入る。
 ここは、学生時代に独りで入ったきり、かれこれ三〇年余りたつ。
 独りで入ったサンボアは今回、娘と二人。
 紳士社会の中に、突然飛び込んだ阿呆な女ども…と言った感じ。

 サンボアのかすかに開かれた小窓の端っこからは、そくさと歩き或はニコニコガヤガヤと歩く新京極や寺町とは別世界な感じ。
 この感覚は能楽堂に似ている小気味の良い異空間
 但し、上にも書いたように、女性には不向きなる神聖なる酒社会
 男に生まれて、独りでゆっくりとした時間と空間を楽しみたいと、痛感する。

 荷物は後方の小机に置く。
 サンボアのカウンターに座る。
 メニューは無い。
 わたしは十代にもお願いしたドライマティーニを注文。この店はそれしか知らない。

 そもそも、この店のドライマティーニの伝授者は作家開高健(といっても、当然小説の話)。
 ドライマティーニを楽しみ、オリーブを口に含み、種は「ペッ!」と、床に落とす。
 この店では種などは床に落とすと言われているが、勇気がない。
 三〇年前も今回も床には塵一つない。

 以前も開高健を疑う訳ではなかった。
 しかし一女子大生といった若造が板張りのお掃除された床を汚す事に抵抗があった。
 但し、わたくしとて、ペッペとやってみたい。
 パリやマドリッドで実行。サクランボとはいかないまでも、二月の寒空のもと、果実の種をペッペと捨てて格好を付けたものだ。(ゴミ、捨てるな!の声が心の中でこだまする)

 学生時代に女の若造の入って肩身の狭い思いをしたサンボア…これはわたくしにとって貴重であり、良い思いで。
 あれからわたくし、もう少しカッコいい女になっている予定だったが、さにあらず。
 安部公房と会話すことさえ気おくれしなかったわたくしだったが、今やただのさえない主婦
 退化はさけられないぞ! 内なる悪魔の声に、鏡を見てはほくそ笑む。今や!五十○女☆良い歳を重ねているぞ!と、天使の声。

 しあわせな家族に恵まれ、こうして三〇年前の時をよみがえらせる勇気を持っている。
 協力者である娘の存在も大きい。
 仕事にもかかわらず、わたくしたちを遊ばせてくれる夫の包容力も有難い。
 生まれ育った京都に触れる事が可能な今の境遇に感謝する。

 京都のサンボアのカウンター越しには、いろんな酒。
 伏せられたピカピカにグラスには、マスターの思い入れを感じる。
 重厚で機能的なの焦げ茶の二段の棚にも、グラスやボトルが並んでいた。だが、なぜかしら、その中にクローブ(スパイス)の小ビンあり。
 そして、おびただしい数の年代を重ねた栓抜きがかけられている。わたくしはそれを漠然と眺める。

 眺める事は善である。
 静かに、会話なく眺める。
 わたくしもこの空間の楽しみ方が理解出来たような瞬間だった。
 男の遊びは高尚だと、今更ながらに感じた瞬間だった。

 店内には黒電話二機
 一つは壁にかけられ、一つはカウンターの上
 カウンターの客側には手すりが横たわり、マスターと客との小気味の良い距離感を感じる。
 舞台と枡席の隔たり具合を思い出す。

 マスターは言葉少な
 ご自身も酒を楽しまれている。
 楽しみながら、客を洞察
 カウンターの手すりを隔てて、マスターと客とが精神的チェスをする。

 店内には京都人の老紳士は新聞を読み、もの静かにビールを舐める。
 グラスが空くと、コースターごと無言でマスターに差し出す。
 マスターも無言。小ビンの尖を抜き、静かにビールをつぎ、無言で差し出す。
 紳士は、またビールを舐め時間を舐めながら、何事もなかったように新聞を読む。

 ドライマティーニをちびちびと舌なめずりする。
 ここにきて酒の弱いわたくしは、娘に引き継ぎを申し出る。
 一旦娘のまえにおいたドライマティーニだったが、あまりにも味がうまいので、娘に何度もお願いする。
「もう一口飲ませて…」

 カクテルグラスは娘とわたくしの間を行ったり来たりする。
 口の中はカッ!と焼き付くように熱いのだが、甘くて上手い。
 吾が酒の弱さを恨む。
 カクテルグラスは薄暗い店内でひかり輝く。
 
 

 


              京都サンボア   
              京都市中京区寺町通三条下ル桜之町406 
              075-221-2811  
              1926(大正15)年 創業
              (京都最古とか日本最古とか文豪たちはこぞって記す)




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