『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 8 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門
早稲田大学デジタルライブラリー
8
ゆきおらず。小さく出たと、にくかろが。此諸万人のくんじゆをつきのけ、おし
のけ、めに立、ふうぞく。本天満町 かハちや 徳衛門といふ油屋の二ばんむす
こ。ちや屋/\のわけもろくに立ず。あのざま、見よと、ゆびさしするが。せうし
な。こうとうな兄御を手本にたて。あきんどゝいふ物ハ、一文銭もあだに
せず。すゞめのすも、くふにたまる。ずいふん かせいで、親達のかた たすけと。心
願立さんせ。脇へハいかぬ其身のせうごん。ハァ、気にいらぬら、返事がない。
姉 おじや、はやう参らふ。道でこちの人にあハしやんしたら。本だうに持てて
ぬかといふて下さんせ。ちや屋 過分と たもとより置、ちやの残の
八、九文。四分におもく、五分にハ。かろ/″\しげの物参り。別れてお吉通り
ける。悪性に うハぬりする かいしゆの 善兵衛、あの女ハ 与兵衛が筋むかひの
おか様でないかい。物ごしも とこやら、恋の有、うつくしいかほで。扨ゝ かたい女房
じやな。されバ 年もまだ廿七。色ハあれど、数の子程、うみひろげ。所
帯じうて、気がこうとう よい女房に いかひ疵(きづ)。みかけ計でうまみない。
飴ざいくの鳥じやと、笑ひける。かゝとハいかで。しろうとの ゐなかの客
くんじゆ
群衆
(前回の『女殺油地獄』7にも出ている)
本天満町 かハちや 徳衛門といふ油屋の二ばんむすこ
本天満町 河内屋 徳衛門と云う油屋の二番息子
ちや屋/\
茶屋茶屋
兄御
兄を敬っていう語。あにごぜ。⇔弟御。
「―は何とかおはする」〈曽我・三〉
かいしゆ
皆朱
漆塗りの一種。全部朱色に塗ること、また、塗ったもの。
『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作
近松門左衛門 1653-1724
高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門, [出版年不明]
22cm
竹本筑後掾正本
共同刊行:山本九兵衛(大坂高麗橋)
題簽の一部を欠く 虫損あり
和装
印記:文楽蔵,渡邉蔵書
渡辺霞亭旧蔵
早稲田大学デジタルライブラリー ヘ07 04334
『女殺油地獄』 1 上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 早稲田大学所蔵と東洋文庫所蔵は、同じ。 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 2 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 3 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 4 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 5 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 6 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 7 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門 『女殺油地獄』上,中,下巻 / 近松門左衛門 作 8 高麗橋(大坂) : 正本屋山本九右衛門