恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 60 二十五丁表 二十六丁裏と、『伊勢物語』岩波古典文学大系9
富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 60 二十五丁表 二十六丁裏
二十五丁表
◯をかし、女有けり、つくりいそかしく、米も大豆も
二十六丁裏
あらざりけるに、まめ、米ある人につきて、よめ入
しにける、此男、牛を賈にいきける、そのしやくの
農人、めにてなん、有ける、この男に宿をかさしと
女あるし、腹たちけれハ、そこに有ける橘をとりて
さ月まつ 腹たち花のかほ見れは
むかしの人の もの(説明あり)のかそする
といひけるにそはつかしがりて、納戸に入りてぞ、有ける。
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
さ月まつ 腹たち花のかほ見れは
むかしの人の もの(説明あり)のかそする
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
五月まつ 花たちばなの香をかげば
むかしの人の 袖の香ぞする
米も大豆も
岩波古典文学大系では
米も豆も
そのしやくの農人、めにてなん、有ける、この男に宿をかさしと
その宿の農人、女にてなん、有りける、この男に宿を貸さじと
農人
農業を営む人。農民。のうじん。
腹たち花
腹立ち
橘
もののかそする
物の香ぞする
もののかそする は岩波古典文学大系を優先したが、
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』では、
□□のかそする
とあるが此処ではあえて割愛したい。
□□のかそするの後は
といひけるにそ、はつかしがりて、と続く。
また、『伊勢物語』になれば
五月まつ 花たちばなの香をかげば
むかしの人の 袖の香ぞする
美しい表現だが、内容は多少類似している^^
たちばなの香
橘(たちばな)を通して日本文化、魂の故郷の再発見。
たとえばお正月の鏡餅の上に何故ミカンを置くのか。
右近の橘、 左近の桜にはどのような意味があるのか。
このような何 気ない日本の伝承にもとても大切な意味が込められていることを解き明かします。
橘は、沖縄に産するシークァシャーと並んで、日本原産の柑橘種です。古代日本人は「トキジクノカグノコノミ」(永遠に香っている果実)と呼び、大変神聖視してきました
橘のフィールドワークを通して、日本文化に深く関わる橘の伝承を調査し、古代日本人の世界観や宗教観に、嗅覚的なことがどのように関わっているかを考察しています。
それは橘による香りの民俗学ともいえるものである。
(吉武利文著 『橘の香り : 古代日本人が愛した香りの植物』)