富田高至 編者
和泉書院影印業刊 65(第四期) 1998年
下 50 二十二丁裏 二十三丁表 二十三丁裏
二十二丁裏
◯をかし男ける、うらむる人を恨て
鳶の子をとらへて鷹につかふとも
おもハぬ人を 思ふものかは
二十三丁表
といへりけれは、
朝腹に 五里も十里もあるくへし
たれかのこせを茶の見はつへき
また、おとこ
鰒汁に 去年の茄の香の物
あなしほからし 人の心は
又女返し
湯具せすに 布へるよりも恥なるハ
思ハぬ人を 思うたりけり
又、男かへし、
ひたるきと 星の齢と吾銭と
いつれまててふ事を聞くらん
二十三丁裏
譫言かたみにしける男、女の仕事の慰となるへし
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
鳶の子をとらへて鷹につかふとも
おもハぬ人を 思ふものかは
二十三丁表
といへりけれは、
朝腹に 五里も十里もあるくへし
たれかのこせを茶の見はつへき
また、おとこ
鰒汁に 去年の茄の香の物
あなしほからし 人の心は
又女返し
湯具せすに 布へるよりも恥なるハ
思ハぬ人を 思うたりけり
又、男かへし、
ひたるきと 星の齢と吾銭と
いつれまててふ事を聞くらん
『伊勢物語』岩波古典文学大系9より写す
鳥の子を十づゝ十(とは)は重ぬとも
思はぬ人を おもふものかは
といへりければ、
朝露は 消え残りてもありぬべし
誰かのこの世を 頼みはつべき
又、おとこ
吹く風に こぞの櫻は散らぬとも
あなたのみがた 人の心は
又、女、返し
行く水に 數書くよりもはかなきは
思はぬ人を 思ふなりけり
又、男かへし、
行く水と 過ぐるよはひと散る花と
いづれ待ててふ ことをきくらん
鳶の子
鳶の子は 鷹にならず(ことわざ)
平凡な親からは平凡な子が生まれるもので、非凡な子は生まれないことのたとえ。
蛙(かえる)の子は蛙
『鳶の子』の現代語訳 (yahoo知恵袋)
鳶の子供が巣立ちするころ、兄鳥は巣から飛び出したけれど、弟鳥は羽がまだ整っていないことを知らずに飛んだために梢から落ちてしまった。
親鳥は心配するけれど、子の体はすでに親をもしのぐほどに羽がふくらみ生えているものだから、どうしようもなくて巣に入って呼ぶのだけれど、そもそも飛べないのであるから戻れようもない。
ニ三日後に見ると、鳥は同じ所にうずくまっていた。
捕まえてみると動くこともできずたいそう腹を空かしている様子なので、一晩さまざまな餌を与えていた。
明くる日は餌をやろうとすると、恐ろしい形相でこっちを脅すのであったが、昨晩は飢えていたためにそういった気持ちも出てこないように見えた。
人を脅すことは憎らしいけれども。このままにして死なすのも忍びないと思い世話をしたのである。
二日ほど経過すると羽もよく整ってきた。
「これならば」と思い、もとの木陰に連れていき、やおらこれを籠から出すと、どうにか自分から逃げ出すような素振りをみせて飛んでいった。
親鳥も、人間がこんなふうにして放ってやったことなど知るよしもなく、うまい具合に籠から逃れ出たもんだというように、それを連れて去って行ったのである。
たれかのこせを
誰かの此世を
此世(こせ)
〘名〙 現に生きている今の世。
(イ) 死後の世界であるあの世に対して、現世をいう。 今生(こんじょう)。 ※万葉(8C後)三・三四八 「今代(このよ)にし楽しくあらば来む生(よ)には虫に鳥にも吾れはなりなむ」 ※謡曲・隅田川(1432頃) 「さりとては人びと、この土を返していま一度、この世の姿を、母に見せさせ給へや」 (ロ) 過去や未来などに対して、現代をいう。 当代。 ※源氏(1001‐14頃)紅葉賀 「この世に名を得たる舞のをのこどもも、げにいとかしこけれど」 (ハ) 世の中。世間。社会。 ※枕(10C終)四〇 「あすはひの木、この世にちかくもみえきこえず。御嶽にまうでて帰りたる人などのもて来める」 鰒 (あわび、河豚) ①あわび(鮑)。巻貝の一種。 ②ふぐ(河豚)。フグ科の海魚の総称。 茄 (茄子) ①なす。なすび。ナス科の一年草。食用。 ②はす(蓮)。はちす。 鹽辛(塩辛) 鹽 塩の旧字体 しお。塩素。元素の一つ。
しおづけにする。 譫言(たわこと) 冗談 (類 戯言) 譫 譫 たわごと/うわごと/くどくど言うなどの意味をもつ漢字