富田高至 編者
恩頼堂文庫旧蔵本 『仁勢物語』 22 十二丁表 十二丁裏
和泉書院影印業刊 65(第四期)
1998年 初版
1997年 第三
左
十二丁表
◯をかし男歯いたくてたべにける物、猶やわすれ
さりけん、老婆(ウバ)のもとより
姥(ウバ)ながら 味をかえしもわすれねは
かくうまき物 猶そ食ひたき
右
十二丁裏
といへりけれハ、されハよといひて、男
あいともに 心ひとしきかのしらの
味噌のなかれす くハしともおもふ
とハ人、その夜、恋(こ)にけり、いにしへ食ひける事
ともなといひて
あかりこの 椀を織部になすらへて
八たびくはゞ あく時のあらん
返し
あかり子の 椀を織部になせるとも
汁ハ残りて みやはのこらん
いにしへよりあはれて「なん、くらひける
十二丁表
◯おかし男、歯痛くて食べにける物、猶や忘れ
去りけん、老婆(ウバ)の元より
姥(ウバ)ながら 味を変えしも忘れねば
かく旨き物 猶そ食いたき
十二丁裏
と言えりければ、「さればよ」と言いて、男
相共に 心ひとしき かの しらの
味噌のなかれす 食わしとも 思う
とは、人、その夜、恋(こ)にけり、古(いにしえ)食いける事
ともなと言いて
あかりこの 椀を織部に準(なずら)えて
八度食わば 飽く時のあらん
返し
あかり子の 椀を織部になせるとも
汁は残りて 實(み)やは残らん
古(いにしえ)より哀れてなん、食いける
織部
底が浅く、上が広く開いている塗椀。茶人古田織部正重然の創制。
みや實(み)や
汁に入っている肉
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
姥(ウバ)ながら 味をかえしもわすれねは
かくうまき物 猶そ食ひたき
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
憂きながら 人をばえしも忘れねば
かつ恨みつゝ 猶ぞ恋しき
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
あいともに 心ひとしきかのしらの
味噌のなかれす くハしともおもふ
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
あひ見ては 心ひとつをかわしまの
水の流れて 絶え時とぞ思ふ
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
あかりこの 椀を織部になすらへて
八たびくはゞ あく時のあらん
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
秋の夜の 千代を一夜になずらへて
八千代し寝ばや あく時のあらん
『仁勢物語』和泉書院影印業刊
あかり子の 椀を織部になせるとも
汁ハ残りて みやはのこらん
『伊勢物語』岩波古典文学大系9 「竹取物語 伊勢物語 大和物語」より写す
秋の夜の 千代を一夜になりせとも
ことば残りて とりや鳴きやん