絵入 好色一代男 八前之内 巻一 井原西鶴
天和二壬戌年陽月中旬
大阪思案橋 孫兵衞可心板
『絵入 好色一代男』八全之内 巻一 三 人には見せぬ所 【1】 井原西鶴
皷(つゞみ)もすぐれて、興(けう)なれども、「跡(あと)より恋(こひ)の責(セめ)くれば」
と、そこ計(ばかり)を、明(あけ)くれうつ程(ほと)に、後(のち)にハ親(おや)の
耳(ミヽ)にも、かしかましく、俄(にわか)にやめさせて、世を
わたる男芸(おとこげい)とて、両替町(りょうかへまち)に春日屋(かすがや)とて、母(はゝ)かた
の所縁(ゆかり)あり、此もとへ銀(ぎん)見習(なら)ふためとて、つかハし
置(をき)けるに、はやしに一ばい三百目の借(か)り手形(てがた)
いかに、欲(よく)の世の中なれは迚(とて)、かす人もおとなげ
なし、其頃(そのころ)九才の、五月四日の事ぞかし、あやめ
葺(ふき)かさぬ流、軒(のき)のつま見越(こし)の柳(やなぎ)しげりて、木下(このした)
闇(やミ)の夕暮(くれ)みぎりに しのべ竹の人除(よけ)に