『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 6ウ 近松門左衛門作 12
(入りたしと、家家ながら敷居高く、内をのぞけば食(めし) 6オ)
たき能まんめが酒屋へ行体也、きやつハ木ではなもぎ
どをももの只ハいふまじ、ぬれかけて。だましてとはんと
しあんするまにによつと出る、樽もつた手をしかとし
むれば、あれ、だんなさま能とこゐ立る。アヽかしましい。
こりやすいめ。おれがくびだけなづんてゐる。思い内
尓あれば色外尓あらハるヽ目付をそちも見て取
たか、かハいらしいかほ付で。きのどくがらすハどふじや、い
やいいつそ、ころせとだき付ば。うそつかんせ。毎日/\
(新町通ひ。のべ能はな紙二枚三枚。けつこうなはな 7オ)
ぬれかけて=濡れかけて
とはんと=問はんと
によつと出る=にょっと出る
樽もつた手=樽持った手
こりやすいめ=こりゃ、粋め
かハいらしいかほ付=かわいらし位顔つき
きのどくがらすハどふじやい=気の毒烏はどうじゃ
いやいいつそ、ころせとだき付ば=嫌言いつつぞ、「殺せ」と抱き付けば
けつこうなはな=結構な鼻(花の掛詞)
(6ウ)
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」P.285
(1オ)(1ウ)(2 オ)= (一丁表)(一丁裏)(二丁表)…と言う意味です。
本文に「。」が付いている場合は「。」 付いて無い場合は「、」突表記しています。
(「尓」「能」などのように、副詞部分はそのまま元字で書いています)
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 1 オ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 1 ウ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 2オ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 2ウ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 3オ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 3ウ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 4オ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 4ウ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5オ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5ウ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 6オ 近松門左衛門作
『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 6ウ 近松門左衛門作
「冥途の飛脚」 1 オ
梅川 冥途の飛脚 近松門左衛門作
身をつくし難波尓さくやこの花能。里ハ
三すぢ尓町の名も佐渡と越後
相の手を。かよう千鳥の淡路町、亀屋
能世つぎ忠兵衛、ことし廾能上はまだ四
年、いぜんに大和より、敷金をもつて養子
ぶん後家妙閑のかいほう処、あきなひ功
者駄荷づもり江戸へも上下三度笠。
「冥途の飛脚」 1 ウ
茶のゆはいかい素双のべに手能かど
とれて。酒も三川四川五川所もん羽二重も
出ずいらず。無地の丸つばぞうがんの國
ざいく尓はまれ男。色能わけ志り里志りて
暮るを待ずとぶ足能。飛脚宿能いそがし
さ。荷をつくるやら不どくやら。手代ハ帳面
そろばんをおゝ口とも尓どや/\と。千万両能
やりくりも、つくしあづま能とりやりもゐながら
「冥途の飛脚」 2オ
かね能自由さハ、一歩小判やしろかね尓つばさ能
有がごとく也、町通り能状取立帰つてそれ/\と。
とめ帳つくり所へたそ頼もふ忠兵宿尓ゐやる
かと。あん内するハ出入能屋やしき能さむらい。手代共ゐん
ぎん尓。ヤア是ハ甚内さま。忠兵衛ハるすなればお下
し物能御用ならば。私尓仰聞られなせ。お茶もて
おじや、と、あいしらう。いや/\下り能用はなし。ゑど
若だんなより御状が来た。是おきゝやれとおしひらき。
「冥途の飛脚」 2ウ
来月二日出の三度尓金子三百両毎さしのばせ
申べく候。九日十日両日能中、その地亀屋忠兵衛方
より。右三百両毎請取内ゝ申置候こと共、埒明申さ
るべく候。則飛脚能請取證文此度登せ候間。金子
請取次第この證文忠兵衛尓渡し申さるべく候。是
此通仰下された。今日迄とゝかぬ処大事能御用の
手はづがちがう。なぜか様にふらちなとはなを。しかめ
言ひければ。ハヽ御尤/\。去りながら此中能雨つゝき。川ゝ
「冥途の飛脚」 3オ
仁 水が出ますれば、道中尓日がこミ。かね能とゝかぬ
のみならず、手前も大分能そん銀。もし盗賊が
切取道からふつと出来心。万ゝ貫目取られても。
十八軒能飛脚宿からわきまへ。けし程も御損
かけませむ、おきづかひあられるな。いはせもはてず
是さ/\。いふまでもない御そんかけてハ忠兵衛がくびが
とぶ。日銀のびてハ御用能間があく仁より、それ処
能せんさく迎ひ飛脚をつかハして早速尓持参
「冥途の飛脚」 3ウ
せいとかちわかたうもゐくハう。銀ごしらへも
うさんなまりちらして成りしが。まだ頼みませふ/\。
中能嶋丹波屋八右衛門から来ました。江戸尓舟
町米どひ屋能かハせ銀そへ状ハなぜ
とゞきませぬ。此中文を進しても返事もござ
らず。使をやれば酢能こんにやくのといつ届けさつ
しやるぞ。此者わたして人をつけて下され。手形
手形もどそと申さるゝ、サア金子請とらふと立はたかつ
「冥途の飛脚」 4オ
てわめきける。主おもひ能手代の伊右衛、さハがぬ躰尓
て。是お使い、八右衛門さまが其様尓、りくつ臭い口上ハ
有まい。五千兩七千両、人能かねをあづかって。百丗里
を家尓し、江戸大阪を。ひろふせばふする亀屋。そ
こ一軒でハ有まいし。をそいこともなふてハ。今でも旦
那かへかへられらば此方から返事せふ。五千両尓たらぬ
金あたがしたましういふまいと。かさから気を
のまれ、使ハまじめ尓帰りけり。母妙閑ハこたつ能
「冥途の飛脚」 4ウ
そばをなることもなん戸を出。ヤァ今能ハなんぞ。たん
ば屋能金のとゞいたハ慥十日もいぜん能こと。なぜ忠
兵衛ハ渡さぬの。けさかた二軒三軒能金のさいそく
ゑず。終尓中間へなんぎをうけず、十八軒能飛脚屋
聞きてゐる。おやじ此代からの此家尓かね一匁能さいそく
能かゞミといはれた此亀屋。ミなハ心もつかぬか。
兵衛か此処能そぶりがどふも、のミこまぬ。昨今能者ハ
しるまいが、じだい是能実子でなし。もとハ大和新口
「冥途の飛脚」 5オ
村勝木孫右衛門と云大百姓能ひとり子母ご
ぜハお死尓やって継母がゝり能技くれ尓。悪性狂
ひも出来るぞと、てゝごせ能思案で是能世とり尓
もらひしが。せたいまハり商売ごと何尓おろかハな
けれ共。此比ハそハ/\と何も手尓付かぬ見た、ゐけん
能しさいとあれど、養子能母もまま母も。同前と
思はふかせハ/\いふよりいはぬ身を。はぢいらせふと
おもふて、目をねふつても聞所、見所ハみてゐる、いつ
「冥途の飛脚」 5ウ
能ま尓やら大気尓なり述べ能はな紙二枚三枚手尓あ
たり次第。かさねながら、はなかミやる。過ぎゆかれしおや
じ能咄尓。はな紙びんびと仕ふ者ハくせ者じやと
いはれたが。忠兵衛が内を出さま尓のべ三折づゝ入て
出て何程はなをかむやらもどり尓ハ一枚も残らぬ。
身が達者な能わかいのとて。あの様尓はな噛んでハ。
どこぞで病も出ませふとよまいごとして入ければ。
でつち小者もせふしがり、早ふかへつてくだされかしと。
「冥途の飛脚」 6オ
待日も西能のどり足見せさし此尓成尓けり。かご
能鳥なる梅川尓こがれて通ふさとすゞめ。忠兵衛ハ
とぼ/\と外能ぐめん内能くび。心ハくもでかくなハや
十文色も出てくるハ、なむ三宝がくれるとあしを
空に立帰り、門口尓ハ着けれ共、るす能内尓方ゝ
能、さいそく使妙閑能ミヽ尓入ていか様能、首尾尓なつ
たもきづかハし、誰ぞ。出よかし内證をとくと聞きて
入りたしと、家家ながら敷居高く、内をのぞけば食(めし)
「冥途の飛脚」 6ウ
たき能まんめが酒屋へ行体也、きやつハ木ではなもぎ
どをももの只ハいふまじ、ぬれかけて。だましてとはんと
しあんするまにによつと出る、樽もつた手をしかとし
むれば、あれ、だんなさま能とこゐ立る。アヽかしましい。
こりやすいめ。おれがくびだけなづんてゐる。思い内
尓あれば色外尓あらハるヽ目付をそちも見て取
たか、かハいらしいかほ付で。きのどくがらすハどふじや、い
やいいつそ、ころせとだき付ば。うそつかんせ。毎日/\